電気自動車の最高峰レース「フォーミュラE」と、電力利用の効率化に貢献する「SiC」

2019年06月23日 12:19

フォーミュラE

フォーミュラEシーズン5・第5戦で優勝したヴェンチュリーチームの陰に、日本企業ロームが研鑽を重ねてきたSiCシリコンカーバイド技術がある。

 完全電動フォーミュラカーによるモータースポーツ「フォーミュラE」が今、熱く盛り上がっている。昨年12月から今年7月にかけて開催中の「FIAフォーミュラE選手権シーズン5」では、マヒンドラに加え、アウディ、ジャガー・ランドローバーグループ、ヴェンチュリー、そして日産自動車〈7201〉やBMWも参戦。さらに「シーズン6」からはメルセデスとポルシェのファクトリーチームも続々と参戦を表明している過熱ぶりだ。

 フォーミュラEはよく「電気自動車のF1」ともいわれるが、速さを極める本家のF1レースとは少し趣が異なるレースだ。まず、フォーミュラEが開催されるのはサーキットではなく市街地。一般道を閉鎖して作られたコースを走る。そして、使用されるタイヤも、F1のようにドライとウェットを使い分けるのではなく、晴雨兼用で利用する支給品だ。さらには、搭載されるリチウムイオン電池も全チーム共通のものが支給される。つまり、フォーミュラEで最も重要視されるのは「速さ」よりも、むしろ「効率」の良さ。限られた電池容量をどれだけ有効に使って走行性能を引き出せるかという戦いになる。

 そして、世界中の大手自動車メーカーがこぞって参戦を始めている理由もここにある。

 富士経済がまとめた「2018年版HEV、EV関連市場徹底分析調査」によると、中国市場のEVシフトにけん引される形で欧州やインドでもEVシフトが進み、世界のEV市場は2035年までに、2017年度比でおよそ14.8倍となる1125万台に成長すると予測されている。このことからも分かるように、自動車メーカーにしてみれば、フォーミュラEは来るべきEV社会に向けての実験場なのだ。車体やシャーシも基本的には全チーム共通のものを用いて行われるフォーミュラEは、自社の次世代EV車開発に応用できる技術やノウハウ、データなどを蓄積し、他社のEV性能との比較までできる格好の機会。また、自動車メーカーだけでなく、自動車関連部品のメーカーもフォーミュラEへの参戦に積極的だ。

 例えば、3月に中国・香港で開催されたシーズン5の第5戦で見事に優勝したヴェンチュリー・フォーミュラEチームのオフィシャル・テクノロジー・パートナーである日本の電子部品大手ロームもそんな企業の一つだ。同社は、電力システム高効率化の中核をなす部分のひとつ、インバータに用いるシリコンカーバイド(SiC、炭化ケイ素)パワーデバイスを提供している。

 ロームはシーズン3で供給してきたSiCショットキーバリアダイオードを、シーズン4からフルSiCモジュールへと進化させ、SiC搭載前のシーズン2のインバータと比べて43%の小型化、6kgの軽量化に貢献して注目を浴びており、シーズン5のインバータはさらに軽量化、小型化、高負荷対応を実現しているようだ。インバータの小型化や軽量化はラジエーターやバッテリーなどのEV周辺機器の小型化や軽量化につながるので、電気自動車のパフォーマンス向上には極めて重要な部品だ。

 実際、ヴェンチュリー・フォーミュラEチームのCTOであるFranck Baldet氏は「採用したフルSiCパワーモジュールによって、軽量かつ搭載スペースを最小限に抑えたインバータを実現することができました。最先端技術の活用により、ラップタイムが大幅に短縮されることを期待しています。」とコメントしている。SiC市場で世界のTOP3に入るロームの面目躍如といったところだ。

 F1のレースを見慣れたモーターファンにとっては、フォーミュラEは少し物足りないという声もある。しかしそれは、「電気自動車のF1」というイメージが先行しているからだろう。F1とは全く違う、技術力のレースだと思えば、F1とはまた違った楽しみ方が見えてくる。自動車大国日本の復活のためにも、日本の自動車メーカーや部品メーカーが参加しているチームを熱く応援したい。(編集担当:藤原伊織)