世界で初めて小型半導体素子を用いたテラヘルツ帯無線通信に成功

2011年11月28日 11:00

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半導体メーカーのロームと大阪大学の研究グループは、共鳴トンネルダイオードによる発振素子と、検出素子を用いることで、小型デバイスでの300GHz高速無線通信(1.5Gbps)に成功した。

 光の直進性と電波の透過性をあわせもつテラヘルツ波は、光と電波の中間領域(周波数100GHzから10THz)にあたる電磁波の一分類で、それを発生及び検出する技術が非常に難しく、これまで未開拓電磁波領域と呼ばれていた。しかし近年は、技術の進展により徐々に開発が進み、高速無線通信やセキュリティ用途など、さまざまな分野への応用が期待されているようだ。

 現在、周波数275GHzまでの帯域は電波として割り当てが決められており、ミリ波を使用した無線通信の帯域幅はわずか7GHzと狭く、単純な変調では数Gbps程度の伝送速度が限界だった。限られた帯域の中でデータ伝送速度を高めようとすると、より複雑な変調方式を使う必要があり、消費電力の増加にもつながっていたという。一方、テラヘルツ波を含む275GHz以上の領域では周波数割り当てが決められていないため、より広い帯域を確保することが可能で、消費電力を増やすことなく、単純な変調方式でデータ伝送を高速化することができる。ただ、現在テラヘルツ帯で使える発生装置や検出装置(例えば分光・分析装置で利用されている)は大型かつ高価であり、民生分野での実用化に向けて小型で簡便なテラヘルツ帯デバイスが求められていた。

 そのような中、半導体メーカーのロームと大阪大学の研究グループは、共鳴トンネルダイオードによる発振素子と、検出素子を用いることで、小型デバイスでの300GHz高速無線通信(1.5Gbps)に成功した。

 今回開発された技術は、半導体基板上に放射効率、指向性を改善したアンテナ構造を集積化することにより、素子の小型化(1.5mm×3.0mm)に成功。今回用いた素子は、素子にかける電圧によって発振素子(周波数300GHz)として動作する領域と、検出素子として動作する領域があり、発振素子としては電圧をかけるだけで発振が得られ、検出素子としては従来のテラヘルツ帯検出器に比べて4倍の高い感度を実現している。これに加え、共鳴トンネルダイオードに最適な変調・復調システムを独自に構築することにより、データ伝送の高速化(1.5Gbps)を実現。非圧縮でのハイビジョン映像の無線伝送にも成功している。こうした小型半導体素子を用いたテラヘルツ無線通信は世界初となる。将来的には30Gbps程度の超高速伝送も可能。さらに、1 つのチップが発振素子と検出素子の両方の役割を果たすことが出来るため、素子間での双方向通信も可能となっている。

 現在、テレビもフルハイビジョン(HD)の4倍の画像解像度を持つ「4K」家庭向けテレビや映写機が相次いで開発されている。しかし、このようにテレビ画像の高精細化が進むことにより、データ容量も膨大になり、超高速での無線通信技術が強く求められているのが現状だった。こうした大容量データをサーバから携帯端末などに伝送する場合、一般的な100Mbpsのイーサネットで10分かかっていたデータ容量のものでも、同技術(1.5Gbps)を用いれば約40秒で伝送でき、将来的にはわずか数秒に短縮することも可能となる。

 また、テラヘルツ波は紙や衣服を透過し、金属のみを反射するという特性を持っており、郵便物の危険物検査や空港のセキュリティチェック、医薬品の品質検査など、幅広い分野への応用も期待されている。同技術は実用化への大きな課題であった小型化や消費電力の低減にも大きく貢献しており、いち早い実用化に向け、今後もさらに共同研究を推し進めていく。