政府は既に2018年後半からの景気後退入りを認めている。これを裏付けるかのように賃金動向は19年に入り、名目、実質ともに前年比マイナス基調に転じている。昨年からの新型コロナウイルス感染症の流行はこの賃金のマイナス傾向をより深刻なものにしている。コロナ禍で多くの企業が賃金引き上げを抑制し雇用の維持を最優先しており、既に経団連は雇用維持と事業継続を最優先にするため一律の賃上げを打ち出さない方針を示している。
2月15日、帝国データバンクが1月に実施した「2021年度の賃金動向に関する企業の意識調査」の結果を公表している。これによれば、正社員のベースアップや賞与、一時金の引き上げなどの賃金改善が「ある」と見込む企業は42.0%であった。これは14年度見込み46.4%以来7年ぶりの低水準である。20年度見込みと比較すると11.3ポイントの大幅な減少となる。一方、賃金改善が「ない」と見込む企業は28.0%となっており、これも14年度に近い水準まで高くなっている。「分からない」と回答した企業は30.0%で5年ぶりに3割台まで増加しており、21年度の賃金改善に慎重な態度を示す企業が増加しているようだ。
規模別で「賃金改善見込み」の企業割合をみると、大企業で38.2%、中小企業が42.9%、小規模企業で37.0%となっており、全ての規模で20年度見込みから10ポイント以上の低下となっている。業界別では、未だ人手不足が顕著な「建設」で47.8%と最も高くなっているものの昨年度の見込みから10.1ポイント減少している。コロナ禍で需要が激減した旅行代理店や旅客自動車運送など観光関連業種を含む「運輸・倉庫」は36.7%で、昨年度見込みとの比較では18.5ポイントの減少と最も大幅な落ち込みとなっている。
21年度の賃金改善の具体的内容については「ベースアップ」が35.9%で昨年度見込みから9.3ポイントの大幅減、「賞与(一時金)」は 20.3%で同6.0ポイントの減少となっている。
賃金改善が「ない」理由は、「自社の業績低迷」が76.7%で前回調査より18.6ポイントの大幅な増加となっている。このうち新型コロナによる業績の低迷を理由としている企業は69.4%で、7割の企業が賃金改善をしない理由を新型コロナの影響としている。自粛ムードで消費が低迷する中、消費に影響する賃金の動向が注目される。(編集担当:久保田雄城)