新型コロナウイルスの感染拡大を受けてDXの重要性が増していることを背景に、物流や製造業でもAI(人工知能)やIoTの活用が加速している。産業分野に特化したIoTはとくに「インダストリアルIoT(IIoT)」と呼ばれており、一般的なIoTと同様、機器や生産設備などがインターネットを介して繋がることで情報を収集して蓄積したり、それを分析して作業の効率化やスマート化を図るものだ。一般的には「工場の作業を効率化する」と聞くと、ロボットを導入して作業を自動化し、人間に負荷のかかる重労働を代替させるというイメージを抱く人が多いのではないだろうか。そうした自動化ももちろん進んでいるが、IIoTなどのスマートファクトリー化のメリットはそれだけには留まらない。スマートファクトリー化が進めば、リードタイムの短縮や不良品リスクの最小化、トレーサビリティの強化、保全費用の削減なども可能になる。
一昔前の工場には、何だか危険で煩雑なイメージがつきまとったものだが、スマートファクトリーはその名の通り、工場内も限りなくスマートだ。まず、無線通信で各機器がつながっているので、無骨なケーブル類の多くが解消される。また、各種センサーで生産設備、人、モノの情報を共有し、人間の声や動作を感知したり、温度などもAIが認識したりしてくれるので、安全性も高い。工場のロボットはこれまで、強固な柵で覆われたり、隔離されたりしていたが、スマート化が進んだことで、人間と同じスペースで共に働く協働ロボットも増えてきている。
作業員は、PCやタブレットなどの小型のデバイスで作業手順やシステムの状況をリアルタイムで把握し、工場での製造工程はもちろん、物流まで、すべての流れを可視化および管理することができるのだ。
さらに、熟練工の技術や手順もAIやAR(Augmented Reality/拡張現実)技術等を利用することでデータ化して活用できるので、人手不足や後継者不足問題の改善にもつながる。
とはいえ、ただ単に機器をインターネットにつなぐだけではスマート化は進まない。製造業や物流のスマート化に伴って、注目が高まっているのがその周辺を支える技術だ。
例えば、菱洋エレクトロは「LTE」や「LPWA(Low Power Wide Area)」などの無線通信規格のネットワーク環境を手軽に構築できる「菱洋つながるキット」の販売を3月から開始した。同キットは、 通信モジュールとアンテナ、 SIMカードが組み合わされたものだ。それぞれ技適マーク取得済みの上、SIMカードの回線契約も含まれているので、導入後のシステム検証や評価などもスムーズに行えるのが特徴だ。
また、電子部品メーカーのロームが開発に力を入れているサーマルプリントヘッドなども、これからのIIotには欠かせないものになるだろう。サーマルプリントヘッドは、製造業や物流においては主に製品や梱包材に貼り付けるラベルへのプリントに以前から使用されているものだ。これまではスピードと効率重視で印字品質はさほど求められていなかった。極端な話「読めれば」良かったのだが、スマート物流やスマートファクトリーでは、ラベルへより詳細な情報を埋め込むようになり、バーコードなどの複雑な印字が増えるため、印字品質も重要になる。ところが、一般的なサーマルプリントヘッドでは、印字品質を高めようとすると印字速度を極端に遅く設定しないといけないという課題があった。
そこで、ロームでは高精細・高速印字が可能なサーマルプリントヘッド「TH300xシリーズ」を開発し、印字速度と印字品質を極めて高いレベルで両立することに成功している。しかも、腐食に対して一般品比で7倍以上の耐性も実現しており、長期間安定して印字することが可能な優れモノだ。
ちなみに、ロームは他にもスマートファクトリーやスマート物流に活用できるセンサーや、入り組んだ工場内でも細かく通信網を張り巡らせられる無線通信モジュールなどの開発を積極的に進めており、同社のブログなどでも、これらに関する基本的な知識を分かりやすく解説しているので、参考にしてみてはいかがだろうか。
皮肉なことにコロナ禍に後押しされるような形ではあるものの、これまで遅々として進まなかった日本の製造業や物流のスマート化もようやく動き出した。これからの発展に期待したい。(編集担当:今井慎太郎)