五輪開催、科学的根拠に基づき冷静に判断を

2021年06月13日 08:25

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政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は東京五輪・パラリンピック開催に最大の警鐘を鳴らしている

 五輪開催は「パンデミック(新型コロナウイルスの世界的流行)の状況で普通はない」。政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は東京五輪・パラリンピック開催に最大の警鐘を鳴らしている。「中止」を求めたいという真意は誰もが分かる表現だ。

 五輪で「変異株」が誕生し、世界に拡散されるリスクがある。政府と組織委員会、東京都には利害にとらわれない科学的知見に基づいた専門家の提言に真摯に耳を傾け、五輪開催ができるのか、どうかの判断を冷静に行うことが必要だ。

 「開催で医療制度や検査体制が非常に脆弱(ぜいじゃく)な発展途上国にウイルスがわたる可能性がある」(尾身会長)。また開催により「変異株」が発生すれば「東京五輪株」としてオリンピック史上『最悪の愚行大会』になる。

 選手はじめ大会関係者が日本で感染し、母国で広げることは絶対にくいとめなければならない。政府、五輪組織委員会など大会関係者には、このことを特に自覚していただきたい。

 世界保健機関(WHO)緊急事態対応総括者ライアン氏は「危機管理が保証できない場合は開催を再考すべきと提言した」(共同通信)。これは13日からブラジルで予定のサッカー南米選手権に関連した記者団の質問に答えたものだが、世界のおよそ200か国・地域から選手らが集まる五輪・パラリンピックなら、なおさら危機管理ができないなら開催すべきでない。

 菅義偉総理には尾身会長らが近々まとめる五輪を巡る感染リスクの提言に耳を傾け、IOCに提言を伝えてほしい。尾身会長らの提言がIOC・ジョン・コーツ調整委員長の来日(15日)に間に合えば、来日時に提言を示すことを望みたい。

 尾身会長には提言と同時に「日本外国特派員協会」で記者会見されることを期待する。記者団の質疑応答を通して提言の詳細を説明し、検討成果の情報を全世界に発信していただきたい。

 五輪・パラリンピックを巡って菅総理は国会や党首討論で「国民の命と健康を守るのが私の責任。(国民の命と健康を)守れなければ(五輪は)やらない。当然のこと」と言い切った。

 この発言を受けて、丸川珠代五輪・パラリンピック担当大臣は11日の記者会見で「さまざまな大会準備に関連する時間的猶予が必要なので、きちんと専門家の意見も伺いながら、まず、観客上限を決めるときに(大会を中止するかどうかも)しっかり検討していきたい」と大会中止を視野に検討を語った。

 開催するか、開催しないのか、しない場合は現況からは多くの国民が納得できるはずなので、する場合にこそ、具体的にわかりやすく「開催できるとする根拠を示して」国民に丁寧に説明をすることが必要だ。

 野党第1党立憲民主党の枝野幸男代表は日本外国特派員協会で11日、記者団の問いに答えて「多くの訪日客と国内の人の移動、夏休みが重なる中で五輪を開催すれば8月、9月に感染爆発を生じる恐れが高い」と述べ「菅総理は1年延期か中止についてIOCと交渉すべき」と交渉を求めた。「出入国権限を背景に交渉すれば間にあう」と。土壇場での対応だが、それも一案かもしれない。国民は政府と五輪組織委、東京都の月内の動きを特に注視している。(編集担当:森高龍二)