コロナ禍の行動制限の長期化で経済的環境が悪化している人々が増えているのは周知の事実だ。さらに、経済的環境の悪化のみならず人々の心理的悪化も大きな問題になっている。警察庁の発表では既に昨年から自殺者の数は急増しており、東大の試算では以前より知られている失業率と自殺者数の相関から推計される数を超えて高い水準となっている。増加した自殺者数の属性は若い世代の経済的困窮が多く、中でも30代を中心とする女性での増加が顕著だ。また、経済的状況は安定しており、自殺にまで至らなくとも長引くコロナ禍の中で生活様式が一変し、様々なストレスが増加して精神的健康を損ねている者も増加しているようだ。
9月15日、NTTデータ経営研究所が「働く人のメンタルヘルスとサービス・ギャップの実態調査」の結果レポートを公表している。この調査は今年6-7月にNTTコムリサーチの登録モニターで従業員50名以上の企業の勤務者1022名(男性515名、女性57名)を対象に実施されたものだ。これによれば、回答者の約2人に1人で精神的健康度が低く、うつ病や不安障害などの精神疾患を発症するリスクが高くなっている。このうち、コロナ禍以降にストレスや悩みが増加したと回答した者は6割となっており、コロナ禍での生活の変容が勤労者の精神的健康に悪影響を与えているようだ。
コロナ禍で精神的健康度が低下している者の特徴は、勤務年数が長く、テレワークを実施しており、同居者がいる者で、年代的には40-50代で顕著となっている。経済的には安定した生活を維持しており、社会的にも安定した立場にある者でさえ、テレワークなど就労環境の変化や在宅勤務による家族との生活時間が長くなったなど生活様式の変容でストレスが増加しているようだ。特に勤務経験が長く出勤型の勤務に慣れている40-50代で在宅勤務はむしろ大きなストレスになっているようだ。
企業側はメンタルヘルスに関して相談窓口を設けているが、実際にこれを利用している者は3割程度と極めて低い現況になっている。利用率が低い理由は、相談窓口の認知率がそもそも低いこと、また「相談内容が周囲に漏れる」というサービス利用それ自体にリスクや不安、懸念を感じる抵抗感、さらに、サービス利用によって「効果が得られるとは思えない」という期待度の低さである。レポートでは「行動科学に基づく行動デザインによりサービス利用を促すアプローチが必要だ」と指摘している。(編集担当:久保田雄城)