成長と分配の中で岸田文雄総理が自民党総裁選で強調してきた「金融所得課税の見直し」が早くも挫折し、検討さえ先送り。安倍・菅政権と変われない弱腰姿勢が浮き彫りになった。
岸田総理は10日のフジテレビ「日曜報道THE PRIME」に出演し「当面は『金融所得課税』に触ることは、考えていない」などと語った。
立憲民主党の小西洋之参院議員は「富裕層の金融所得への課税は所信表明演説でも触れられていなかった。 当然に岸田総理の『分配戦略』に入ると思っていたので拍子抜けした。 アベノミクスによる株高は、年金資金や日銀の株購入による官製市場だ。そこで潤っている富裕層には手が出せないのだろう」と10日、ツイッター発信し、皮肉った。
岸田総理は4日の総理就任記者会見で「1億円の壁を念頭に金融所得課税についても考えていくことが必要」と語り、現行の一律20%としている税率を引き上げ、税収を増やして中間層や低所得層に配分する意向を示していたばかりだった。1週間で後退発言となった。
ところが岸田総理は10日のテレビ番組で「成長の果実を分配するためにはいろいろやっていかなければいけない。選択肢の一つとして金融所得課税の問題もあげた」と金融所得課税の在り方に問題があることを認識しながら、その前に「民間企業従業員の給料引き上げを考え、看護・介護・保育といった国が主導して決められる賃金も引き上げていくことが先」などと課題をすり替えた。
「当面、金融所得課税に触ることは考えていない」と述べ、日本経済団体連合会らが強く反対している中でも見直しに入れるのか、総理の肚を示すひとつでもあったが、早くも弱腰発言になった。
経団連は金融所得課税見直しに対し「経済成長を支え国民の資産形成を支援する金融資本市場の重要性を踏まえて、投資者の資産選択に重大な影響を及ぼす懸念にも十分留意し、慎重に検討すべき」などと事実上の反対を表明。
筆者は9日のコラムで「岸田政権が党内3A(安倍晋三・麻生太郎・甘利明の3氏)や経団連べったりの経済政策・エネルギー政策から外れ、あるいは意向に沿わない政策を実現できるのか、疑問がある」と提起したが、早くも10日にその通りになった。
株式譲渡益や配当金などで得る「金融所得」に対しては、どんなに利益を得ても納税は一律20%(所得税15%、住民税5%)に限られている。累進課税になっていない。給与所得者の場合は4000万円以上の所得で住民税を含めた最高税率は55%。それでも65%から引き下げられた結果の税率だ。このため金融所得の割合が高い富裕層ほど税率が低い「不公平」が生じている。
安倍政権は大企業に対する法人税や富裕層への優遇税制をとり続け、菅政権もこれを維持してきた。岸田総理が強調する「納得と共感を得られる政治」は大企業と富裕層からは得られそうだが、森友再調査せず問題も含め、庶民からは早くもブレブレといえよう。それとも軌道修正するのだろうか、注視したい。(編集担当:森高龍二)