東京大学と積水ハウスが、世界最高峰の「デジタル×建築」研究施設を新設

2021年10月24日 08:50

隈研吾氏

東京大学と積水ハウスが、世界最高峰の「デジタル×建築」研究施設を新設。隈研吾特別教授を中心に、次世代の人材育成および住宅イノベーションの実現を目指す。

 デジタル全盛の時代だからこそ、人の感性や経験がより強く求められているのかもしれない。国立大学法人東京大学大学院工学系研究科と積水ハウス株式会社は「国際建築教育拠点(SEKISUIHOUSE – KUMA LAB)」の研究施設「T‐BOX」を東京大学工学部1号館に新設し、日本を代表する建築家であり、東京大学特別教授を務める隈研吾氏を中心に、2021年10月14 日から運用を開始した。

 社会の価値観やライフスタイルは、多種多様にかつ急激に変化し続けている。さらに今、新型コロナウイルスのパンデミックでそれが加速している状況だ。少子高齢化や環境問題などの様々な社会課題においても早急な対策が求められている。住宅や建築業界も例外ではなく、これらに柔軟に対応できうる「新たなあり方」が問われている。そんな中で期待されているのが、建築分野におけるデジタルテクノロジーの活用だ。ところが日本は、建築の技術力は高いものの、この分野において大きく遅れをとっているのが現状だ。そこで「未来の住まいのあり方」をテーマとした研究の場を創ることに合意した東京大学と積水ハウスは2020年6月、隈研吾氏を中心に新たな技術や価値観創出の研究活動を行う国際建築教育拠点(SEKISUI HOUSE – KUMA LAB)を創設した。今回新設された「T-BOX」では、デジタルテクノロジーの活用でカスタマイゼーションが可能になる「住宅イノベーション」の実現を目指すという。

 国際建築教育拠点(SEKISUI HOUSE – KUMA LAB)では、国際デザインスタジオ、デジタルファブリケーションセンター、デジタルアーカイブセンターの3つを展開。その活動が展開される具体的な空間・施設である「T-BOX」は、学内からの利用者を広く受け入れ、東京大学のものづくり環境のハブとなることが期待されている。ちなみに「T-BOX」の「T」は、東京大学の「T」、テクノロジーの「T」、そしてツールボックスの「T」が由来となっている。

 それぞれの具体的な活動としてはまず、国際デザインスタジオでは世界から招聘した、第一線で活躍する建築家がデザインスタジオの指導にあたる。

 デジタルファブリケーションセンターでは、CNC加工機や3Dプリンタ、レーザー加工機などのデジタルファブリケーション設備を完備し、建築学科内外からアクセスできる環境を整えることで、デジタルテクノロジーについての高度な人材育成を図るとともに「人と自然の共生」をテーマに実践的な研究を推進する。

 また、デジタルアーカイブセンターでは、図面や模型などの建築資料をデジタル化し、アーカイビングなどを主軸とした研究・教育拠点の構築を目指す。さらには、学内のみならず、国内外の研究者がアクセスできるようなアーカイブプラットフォームの構築に取り組むという。実現すれば、国際的な建築史研究・教育ネットワークの構築に大きく貢献するだろう。

 オンラインでの会見に登壇した隈研吾氏は、デジタルな社会とリアルな社会を「つなぎ直す」必要があることを強く訴え、「T-BOXはそのための組織であり空間であり、国内だけでなく、海外の研究機関等との交流の新時代を拓くためのプラットフォームにしたい」と意気込みを語った。また、『「わが家」を世界一 幸せな場所にする』というグローバルビジョンを掲げている積水ハウスの仲井嘉浩社長も、「人生100年を幸せに過ごすためには、お金や不動産といった有形資産よりも、健康や人とのつながりなどの無形資産がより重要になるだろう」と強調し、感性を大事にする時代の到来を予見した。「これまでは一般家庭には取り入れることが難しかったようなもの、例えば日本の伝統工芸や匠の持つ職人技術なども、デジタルの力を借りることによって、より身近なものにしていければ」と「SEKISUI HOUSE ? KUMA LAB」の展開がもたらす新たなイノベーションに期待を膨らませた。

 会見では、隈研吾氏が何度も繰り返し「つなぎ直す」という言葉を口にして印象的だった。日本の最高学府と、日本の住宅・建築業界を牽引する企業のコラボによる、人の感性や経験を蓄積・活用するための、デジタルと建築の「つなぎ直し」がどんな未来を見せてくれるのか。今後の活動に大いに注目したいところだ。(編集担当:藤原伊織)