新型コロナワクチンの接種普及とともに欧米を中心に経済活動の正常化が推し進められている。日本でもワクチン接種率は7割に近づきつつあり、今後経済活動の正常化が徐々に推し進められていくと期待される。行動制限下で積み上がった個人貯蓄が一斉にはき出されるリベンジ消費が期待されているが、企業もまたコロナ禍で現預金を増加させており、これが成長分野への投資に向かうことが期待される。
10月7日に日本総研(日本総合研究所)が「コロナ禍の現預金、成長投資に活用余地 ~投資機会のある産業に23兆円滞留~」というレポートを発表している。これによれば、財務省「法人企業統計調査」での2020年度末における現預金残高は250兆円で、前年度から37兆円増加しており、増加率は17.7%と極めて高い伸び率となっている。これは、昨春以降、企業が金融機関からの借り入れを拡大させコロナ禍での不測の事態に備えてきたため、とレポートは分析している。
実際、企業の債務残高は20年度末に560兆円と前年度から56兆円増加しており、そのうちの多くが預金として滞留しているようだ。企業収益は昨年度の落ち込みから既に改善しているものの国内投資は抑制された状態で、企業の手元資金は高止まっているとみられる。日本銀行の資金循環表からも企業の現預金は昨年4-6月期に急拡大し、その後も小幅な増加が続いており、昨年後半からは資金余剰となっている。
今後、コロナ禍で膨らんだ預金と債務を調整する必要がある。一部の企業では債務返済額が売上見込みを超える過剰債務の状況にあると見られているが、レポートの試算では、全体として期待収益率が資本コストを上回っており、その比率は半数以上の産業で1.8倍を超え、経験則からこれらの産業では「投資機会」ありと判断されている。レポートは「半数近くの産業で投資機会があり、現預金の活用で企業価値の向上と過剰債務の解消を図りうる」と分析している。コロナ禍で増加した現預金のうち23兆円は投資機会があると試算された情報通信、製造、小売、建設など8産業で保有されている。
試算上は「投資機会あり」となっているが、先行き不透明の中、企業は未だ現預金の投資への活用には慎重な態度を維持している。レポートは「政府には、デジタル化やグリーン化をはじめ成長分野での戦略・目標・行程を具体的に提示するなど、投資を巡る不透明感を緩和させる取り組みが求められる」と提言している。(編集担当:久保田雄城)