最強・最高の木造耐力壁の栄冠は誰の手に? 第4回「壁ー1グランプリ」決定

2021年11月14日 08:36

壁ワン

10月23日~24日、埼玉県行田市のものつくり大学で開催された「壁ー1グランプリ」。最強・最高の木造耐力壁の座をめぐり、プロチームと学生チームが入り乱れてのガチンコ勝負が繰り広げられた。

 新型コロナウイルスのパンデミックを機に、オンラインでの繋がりが一気に加速した。メタバースと呼ばれるオンライン上に構築された3DCGの仮想空間なども大きな話題を呼んでいる。しかし、そんな人と人との直接のつながりが希薄になりつつある世の中だからこそ、人同士が寄り集まって取り組むことで生まれるイノベーションや、受け継がれてきた伝統の技術と最新技術の連携が生み出す新たな価値が、より重要になってくるのではないだろうかと思わせるイベントが開催された。木造耐力壁の日本一を決める「壁-1グランプリ」、通称、壁ワンだ。

 一般的には馴染みの薄い壁ワンだが、その歴史は古く、前身となる「木造耐力壁ジャパンカップ」が1998年から2017年まで20年間、「壁-1グランプリ」と名前を変えてから、今回で4回目の開催となる。1995年に発生した阪神・淡路大震災での教訓と反省を背景に、在来木造の耐震技術開発を促すことを意図に、東京大学の稲山正弘教授を実行委員長として開始。2018年からは「壁-1グランプリ」として、東京都市大学講師の落合陽大会実行委員長のもと、壁-1グランプリ実行委員会(協賛:前田建設工業株式会社・株式会社シネジック・東京木場製材協同組合・株式会社アキュラホーム・株式会社篠原商店、後援:公益財団法人日本住宅・木材技術センター・NPO木の建築フォラム)が受け継ぎ、埼玉県のものつくり大学から施設の提供を受けて毎年開催している。延べ24年にわたり、企業の木造建築技術者はもちろん、日本全国で木造建築を学ぶ数多くの学生も参加し、垣根を超えて木質構造設計を学ぶ場として運営されている伝統ある大会なのだ。

 大会は、2体の木造耐力壁の足元を固定した状態で桁を互いに引き合わせ、所定の変形に達した時点での変形量の差、またはどちらか一方の壁が破壊することによって勝敗が決する対戦形式のトーナメント形式で行われる。例年、専門学校や大学、ハウスメーカー、ゼネコン、プレカット会社など多彩なチームが参加し、10チーム強で予選が行われたのち、上位8チームが決勝トーナメントに駒を進める。トーナメント自体は勝ち進んだチームが優勝となるものの、それだけでは栄えあるグランプリには選ばれない。大会では強度のほか、施工性やデザイン性、耐震性や環境性などが総合的に評価されるのだ。一口に耐力壁といっても、金物を使用しない伝統的なものから、アイディアに溢れる革新的なものまで、各チームの思想や、ものづくりへの頑固なこだわりがある。粘り強く耐震性が高く、安価で省施工、かつ環境負荷を抑えたデザイン性のよいトータルバランスに優れている耐力壁がグランプリを受賞できるのだ。また、トーナメントで惜しくも敗れてしまっても、光るものを持っている壁には、デザイン部門賞、加工施工部門賞をはじめ、環境部門賞、耐震部門賞、審査員特別賞などの各部門賞が贈られる。

 今年の壁ワンは、10月23日と24日の2日間にわたり、埼玉県行田市のものつくり大学で開催された。過去数年、企業を中心としたチームが総合優勝・トーナメント優勝を続けてきたが、今大会では大きな番狂わせが起きた。総合優勝はものつくり大学、トーナメントは滋賀職業能力開発短期大学校が優勝し、大会の歴史上、初めて、学生が主体のチームが両部門とも制する結果となった。また今回、参加企業でもあり大会スポンサーのアキュラホームグループが、学生の柔軟な発想と技術向上への熱意をあと押しして未来の技術開発につなげるべきと考え、スポンサー特別賞を創設。表彰式で滋賀職業能力開発短期大学校、ものつくり大学、東京大学に計30万円が授与されました。ちなみにアキュラホームグループは毎年、東京大学チームとタッグを組んで「アキュラ・チーム匠」として参加。3年連続総合優勝してきた絶対王者。他の参加チームにとっては、まさに大きくて強靭な壁そのものだ。今回、惜しくも敗れはしたが、腐ることなく、それを称えて特別賞まで創設するところに、ものづくり企業の男気と王者の風格を感じずにはいられない。優勝チームはもちろん、他のチームにとっても大きな励みになったのではないだろうか。

 大会では、ものづくりの原点に立ち戻り、業界全体で連携をとり、共有していくことも大きな目的としている。実際、この大会に出場した多くの学生がその後、木造建築技術者として第一線で活躍している。

 また、この大会から生まれた技術や工夫が、木造建築の耐震性能の向上などに活かされたり、土台にも必ずホールダウン金物を使う手法など、現在では業界の常識となっている技術も多いという。

 メタバースのようなバーチャルな世界やテクノロジーは便利で有用なものだが、建築業界に限らず、人と人とが直接ぶつかり合い、考え、切磋琢磨し、魂を込めて絞り出されるものには、まだまだ遠く及ばない。(編集担当:藤原伊織)