厚生労働省は2月、2021年の出生数が84万2897人となり、6年連続で過去最少となったことを発表した。合計特殊出生率は05年に1.26と最低値を記録したが、その後1.3台まで回復したものの、近年は再び低下傾向となっている。少子化が問題となったのは古く、1960年代からであるが、深刻に捉えられるようになったのは70年代初めに2.1を切り人口の再生産が不可能と認識されるようになってからだ。その後も低下傾向で推移し89年には丙午(66年)の1.58を下回り、1.57ショックと呼ばれ少子化対策が積極的に叫ばれるようになった。
少子化の原因については様々な要因が指摘されているが、最も多い議論としては60年代以降の経済成長で社会が大きく変容し伝統的な家族のあり方が変化したにもかかわらず社会制度の改革が遅れていることが挙げられる。実際、少子化は経済発展した先進国・新興国で共通の問題となっている。特に日本は諸外国から、女性の権利が弱い家族制度の改善が遅れており、これが少子化に歯止めがかからない要因と批判的に指摘されてもいる。このように日本での少子化問題の歴史は長く、しかも十分な改革が行われて来なかったため、若い世代では婚姻や出産に関して「あきらめムード」が蔓延し始めているようだ。
5月20日に発表された日本総研(日本総合研究所)のレポート「出生数急減の背景を探る~経済環境と妊孕力の観点から」では、「15年以降進む出生数の急減の一因に、若い世代の出生意欲の低下」があり、「その背景には、若い世代の経済環境の悪化がある」と指摘されている。子どもをつくらない理由として、8割の夫婦が「子育てや教育に金がかかりすぎるから」と答えているが、大卒の男性正規職員の実質年収を世代間で比較すると、60年代生まれ世代に比べ、70年代生まれの団塊ジュニア世代では平均年収が150万円程度少なくなっており、こうした経済水準の低下から正規職員の未婚男性でも、希望する子どもの数が近年減ってきているようだ。
一方女性でも、未婚者の4人に1人が「子どもを産む人生をイメージできない」と回答しており、レポートは「男女とも、若い世代に、結婚や子どもを持つことに対する一種の『あきらめ』が広がっている可能性がある」と指摘する。その上で「結婚、出産、育児を含む家庭生活と、仕事や勉学などの社会生活を若い時期に両立することが当たり前」という国民の意識を作ることが重要で、「そうしたライフスタイルを支える制度設計や経済支援が必要」であると提言している。(編集担当:久保田雄城)