春闘目前! 不況の中でも大企業を中心に大幅な賃上げ発表が相次ぐ理由

2023年03月05日 10:31

画・ 現代の中間管理職 ストレス増加を防げない理由とは

2023年の春季労使交渉(春闘)に向け、大手企業を中心に連合が目標に掲げる賃上げ幅「5%程度」を上回る回答が相次いでいる

 2023年の春季労使交渉(春闘)に向け、大手企業を中心に連合が目標に掲げる賃上げ幅「5%程度」を上回る回答が相次いでいる。コロナ禍や記録的な円安、ロシアによるウクライナ侵攻などの影響などで厳しい状況を強いられている状況の中、それでも賃上げに踏み切る企業の思惑は何だろうか。

 今回、大幅な賃上げを発表している大企業の多くに共通しているキーワードは「人への投資」だ。現在、長引くデフレや経済成長の低迷が続いていることで、優秀な人材の海外流出が加速しており、これを何とか食い止めることが、企業の存続、ひいては持続的な成長のための喫緊の課題となっている。そもそも、日本企業の平均給与は欧米や韓国などと比較しても低水準だ。このままでは、優秀な若い人材をつなぎ留めることは難しい。

 とくにデジタル関連業界の人材流出は深刻だ。現在の主力商品であり、世界的なヒット商品となったニンテンドーSwitchの販売も鈍化傾向にある任天堂も、23年3月期連結決算は減収減益の見通しを出しているにも関わらず、全社員の基本給を10%増額するベースアップ(ベア)を表明した。これは、競争力の向上を図るためには人材の獲得が必要不可欠だという社長判断によるものだという。また、日本電産も、23年度からはグループ全体で社員の平均給与を7%引き上げる方針を示した。さらに同社では、25年度までに社員の平均給与を30%引き上げる計画も打ち出している。

 デジタル関連以外でも、年収で最大40%の賃上げを発表したファーストリテイリング社が話題になるなど、賃上げ回答が増えている。早い段階での発表が増えているのは、国内企業の中でも話題が埋もれてしまうことを恐れ、他社よりも先に採用対象となる優秀な人材に向けてアピールをする狙いもあるのだろう。

 一方、新規採用だけではなく、現在業務に従事している社員のために賃上げを発表する企業もある。例えば、ビーフンの製造・販売で知られるケンミン食品も、そんな企業の一つだ。

 同社は、看板商品である「ケンミン焼ビーフン」などの増販で前年度を上回る売り上げを見込んではいるものの、原材料価格を中心にコストが増えたことで、営業利益は減益を見込んでいる。苦しい中ではあるものの、家族を持つ社員の生活を安定化することが最優先との考えから、家族手当の増額に踏み切った。基本昇給は平均2%と、大企業などと比べると少し控えめではあるものの、継続支給となる家族手当を最大で年間36,000円プラスすることで安心して働ける環境づくりを整えていく。ちなみに同社では昨年、7月に「インフレ手当」、12月には「生活応援一時金」を賞与支給時に別手当として支給している。

 大幅な賃上げも、もちろん大きな魅力ではあるものの、今働いている社員を大切にする姿勢は、これからを担う社員たちにも、何より大きな魅力に映るのではないだろうか。日本経済の厳しい状況はまだしばらく続きそうだが、こうした未来に向けた前向きな企業の動きが希望の光となることを願いたい。(編集担当:藤原伊織)