関東大震災から100年。進化し続ける、日本の住宅耐震性能の現在

2023年09月02日 09:30

日本初の5階建て純木造ビル実物大耐震実験 (1)

AQ Group(旧アキュラホーム)は日本の伝統的な木造軸組工法や耐力壁を用いた独自の耐震構造を確立することで、大地震にも耐え得る耐震性能の実現に成功している

 今年は、関東大震災の発生からちょうど100年の節目の年にあたる。1923年(大正12年)9月1日に発生したマグニチュード7.9の関東大震災は、これまでで唯一、首都圏を襲った巨大地震であり、死者・行方不明者は推定10万5000人にものぼる未曽有の地震被害をもたらした。さすがに100年も前のことだから、当時のことを知る人はほとんどいないが、阪神・淡路大震災や東日本大震災などの震災被害を目の当たりにしてきた我々にとって、その悲惨な状況は想像に難くない。9月1日が「防災の日」に制定され、この日を中心に防災週間、防災月間として、全国各地で防災イベントなどが催されたりしているのも、関東大震災が近代日本における災害対策の出発点となっているからだ。

 被災した方々の中には、地震被災当時の辛い記憶は思い出したくもないという人も多いだろう。しかし、近い将来、南海トラフ地震、日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震、首都直下地震、中部圏・近畿圏直下地震などの大規模地震の発生の切迫性が指摘されている中、生命や財産を守るためには、これまでの震災経験は大いに参考にすべき示唆や教訓を与えてくれるものでもある。

 国土交通省でもこれまで、大きな地震が起こるたびに耐震規定の見直しを行っているが、現在は「令和12年までに耐震性が不十分な住宅、令和7年までに耐震性が不十分な耐震診断義務付け対象建築物をおおむね解消する」ことを目標に掲げ、所有者による耐震化の支援を行っている。また、各住宅メーカーにおいても、国が定める耐震基準以上の耐震性能を有した住宅の開発に取り組んでいる。

 例えば、木造注文住宅のAQ Group(旧アキュラホーム)は昨年、世界初となる木造軸組工法の耐震構造による「5階建て純木造ビル耐震実験」を国立研究開発法人防災科学技術研究所が有する「実大三次元震動破壊実験施設(E-ディフェンス)」にて実施している。同社では、脱炭素社会実現の観点などから「普及型純木造ビル」による街づくりを推進しており、着工中の新社屋の建設も「8階建て純木造」という熱の入れようだ。これまでの中規模木造建築は、求められる耐震性能や耐火性能を実現するためには多くの費用や技術力が必要となることから、木と鉄骨を併用するハイブリッド構造や免震装置が設置されていた。しかし、同社の「普及型純木造ビル」ではそれらを使わず、日本の伝統的な木造軸組工法や耐力壁を用いた独自の耐震構造を確立することで、大地震にも耐え得る耐震性能の実現に成功している。この工法を用いることで大幅なコストの削減が図れ、純木造ビルの普及が進むことが大いに期待できそうだ。

 また、三井ホームでは、は2×6材を使った「枠組壁工法」に、同社独自の「ダブルシールドパネル」「BSウォール」「マットスラブ」を加えた最新構法「プレミアム・モノコック構法」を用いて、東日本大震災や熊本地震などと同等の震度7の強い揺れに対する耐震実験を行っており、2階建ての耐震実験では、なんと60回に及ぶ加振に耐えることが実証されている。

 集合住宅を想定した耐震実験では、長谷工コーポレーションが、国立研究開発法人防災科学技術研究所(以下、防災科研)と、マンション内外装関連の安全性・耐久性について共同研究を進めている。同研究では、集合住宅を想定してモデル化した鉄筋コンクリート造10階建て、高さ約27.5m、重さ約930トンの試験体が使用され、震動台実験の試験体としては世界最大規模だ。実験で使用された地震波は、兵庫県南部地震(M7.3)において神戸海洋気象台で観測された地震動(計測震度6.4、震度6強)の東西・南北・上下方向の成分を使用して三方向同時に加震。加震毎に損傷の程度は若干大きくなるものの、揺れを4回再現した後でも継続使用が十分に可能であり、安全性と耐久性を確認している。

 東日本大震災の発生当時、慌てて自宅の耐震性能を見直したという人も多いだろう。しかし、あれからもう12年の月日が経っていることを忘れてはならない。住宅メーカーなど建築業界の弛まぬ努力により、耐震性能も大きく進化、向上している。大切な命や財産を守るために、今一度、見直してみてはいかがだろうか。(編集担当:藤原伊織)