毎月約1億円。「国政の運営上必要な場合」に官房長官采配で自由に使える「官房機密費」(内閣官房報償費)。
中でも「政策推進費で使った」とした場合、領収書さえ不要。国政運営円滑化のためとはいえ、その運用実態が不透明のままで良いわけがない。
原資は国民の税金。過去に透明化に取組もうとしたのは旧民主党政権のみではないか。官房機密費の透明化を議論する必要がある。
中国新聞が6月17日電子版で「国が使途を公表していない内閣官房報償費(機密費)を受け取ったと公言している研究者」として、軍事アナリストで静岡県立大特任教授の小川和久氏(78)の証言を報じた。
「小渕内閣で官房長官だった野中広務氏(2018年死去)の下で沖縄の米軍基地対策に当たっていた際、150万円を受領した。領収書は不要。精算もなく『犯罪や汚職の温床になり得る』と実感したという。運用の見直しが必要」としている。
小川氏は後日、野中氏に「精算だけは直ちに領収書付きで行う形にし、厳格に監査しなければ、犯罪や汚職の温床になりかねない、と進言。30年後や50年後の情報開示を法律で定めることも提言した。野中氏はうなずいていた」ことを記している。
同社が前日(16日)報じた小川氏との「1問1答」で、小川氏は「融通無碍(むげ)と言えば聞こえはいいが、ずさんを極めている。だれかが一部を懐に入れることがあってもおかしくないくらい」と強い懸念を示している。
官房機密費が選挙年に特に膨れることも大いなる疑問だ。与党の選挙資金に使われたのではとの疑問がわく。2019年の参院選・広島選挙区の河井案里氏の大規模買収事件で使われた内の500万円は官房機密費からではなかったかとも疑問視されている。
官房機密費の扱いについて、2010年3月23日の参議院予算委員会で、時の鳩山由紀夫総理は「官房機密費について4月からすべての支出をチェックする。適当な年月を経た後、すべて公開されるようにすべき」と答弁。記者団に「すべての使い道を記録にとどめ、一定期間経過後に国民に公開する」と明言していた。
そこまで透明化が図れれば理想だが、実際にはそこまで透明化すれば「(公開された情報提供者から、公開)以後、国家運営に資する機密情報が入手できなくなる」リスクもあることは否定できない。
同じ年の4月に鳩山総理は「取扱責任者である内閣官房長官が本年度1年間を通じて内閣官房報償費を、責任を持って執行し、使途等を検証していく中で検討する」と慎重な答弁になった。
2018年1月、最高裁は「官房機密費に関する行政文書に関し支出先が特定されない範囲での開示を認める」と判決した。その結果、市民団体の請求で開示された文書で明らかになったことは官房機密費の大半が領収書不要の『政策推進費』で占められ「ブラックボックス」であり続けていることだ。
「このような扱いでは犯罪や汚職の温床になりかねない」(小川氏の証言)。林芳正官房長官は5月14日の記者会見で「会計検査院が半年に1回検査している」と目的外使用はしていない旨を強調した。
しかし、政策推進費が9割を占める状況で、目的外使用がないとどう担保できているのか。やはり「すべての使い道を記録にとどめること」を義務付け、会計検査院に示す事、虚偽記載や未記載、目的外使用があった場合、官房長官といえども、罰金刑以上に処し、公民権停止を行うことなど目的外使用が起こらないように、実効性のあるものにすることが必要だ。国会で真剣な議論を期待したい。(編集担当:森高龍二)