近年、小さな醸造所でつくられた個性的な「クラフトサケ」が、ちょっとしたブームになりつつあるようだ。「クラフトビール」ならぬ「クラフトサケ」とは、一体、どんな飲料なのだろうか。
クラフトサケブリュワリー協会によると「日本酒(清酒)の製造技術をベースとして、お米を原料としながら従来の日本酒では法的に採用できないプロセスを取り入れた、新しいジャンルのお酒」と定義されている。また多くの場合、クラフトビールと同様に小規模な醸造所、ブルワリーごとの独自のコンセプトやこだわりのもとでつくられた、多様で個性的なお酒が「クラフトサケ」と呼ばれている。その魅力は無限だ。
例えば、秋田県男鹿市で2021年の秋に創業したクラフトサケ醸造所「稲とアガベ」では、「男鹿の風土を醸す」ことを理念にしたクラフトサケづくりを行っている。仕込み水には、富士山の北麓で自家栽培したハーブと山に自生する草木を取り扱う「HERBSTAND」のハーブや草木のハーブティを使用し、米と麹と一緒に発酵させて造り上げた「稲と富士山 HERBSTAND」など、エキセントリックなクラフトサケを造っている。
また、古くからどぶろく文化が根付く岩手県遠野市では、株式会社nondoが土から大切に自然な農法で稲を育て、無添加のクラフトサケを造っている。中でも、煎った米糠を使い、水もと造りで醸した「権化 (ごんげ) MARO」は、当初、醸造法に「前例がない」という理由で販売の認可が下りなかったが、造り手自ら酒税法を変える申請を行い、ようやく販売にいたったという、こだわりと情熱の逸品だ。
新興のブルワリーだけでなく、伝統的な酒づくりを守り続けてきた老舗の酒蔵も、日本酒の製造法をベースにしつつ、これまでの常識にとらわれない酒造りに挑戦し始めている。
日本酒のトップブランドで、日本一の酒どころである灘五郷の老舗酒蔵・白鶴酒造でも、この9月にマイクロブルワリー「HAKUTSURU SAKE CRAFT」を白鶴酒造資料館内に立ち上げた。
「HAKUTSURU SAKE CRAFT」では、杜氏と蔵人の2名が新たなSAKEの可能性を模索して造っている。特殊な醸造方法や470種類以上もある同社の独自酵母の中から、これまで使用していない酵母などを用いたオリジナルの日本酒をメインにや、ホップ、ジンジャーなどを使用したその他醸造酒の製造も予定しているという。将来的には、オーダーメイドSAKEの受注や他業種とのコラボなども考えているとのことなので、今後の展開が楽しみだ。
白鶴酒造は、10月5日に「酒蔵開放」を開催し、その中の企画の一つとしても、誕生したばかりのマイクロブルワリー「HAKUTSURU SAKE CRAFT」が紹介され、杜氏が動画で酒造りの様子や設備を紹介した後、ガラス越しに設備がお披露目された。発酵タンクの側面に施されたアクリルの窓から、もろみの発酵が進んでいく様子が見られるのは珍しいと好評で、実際に「HAKUTSURU SAKE CRAFT」で初めて醸造したお酒「HAKUTSURU SAKE CRAFT №1」を有料試飲した来場からは、この小さなスペースでこれだけ美味しいお酒ができるのかと、感嘆の声も上がっていたという。
現在の日本では日本酒の醸造免許の新規発行が認められておらず、新しい日本酒をつくるためには、すでに廃業した蔵元や休業中の蔵元の権利を引き継ぐ必要がある。新規参入するには困難な日本酒業界において、日本酒のさらなる可能性として誕生した「クラフトサケ」。大手の参入によりさらに盛り上がり、日本の新しいサケ文化の発展に期待したい。(編集担当:藤原伊織)