「山の国資源」が日本を変える 脱石油依存へ、水力が支える経済安全保障

2026年06月17日 11:16

今回のニュースのポイント

日本総合研究所は、原油調達リスクの高まりを踏まえ、水力発電やバイオマス、地熱など国内資源を活用した「山の国資源」戦略を提言しました。既存の治水ダムを高度化すれば、現在の水力発電量に匹敵、あるいはそれを上回る発電ポテンシャルが期待できると独自試算。エネルギー安全保障と地方創生、地域産業政策を一体で進める新たな成長モデルを示しています。

本文
 国際情勢の緊迫化に伴うホルムズ海峡の地政学リスクにより、日本のエネルギー調達における深刻な中東・石油依存の課題が改めて浮き彫りとなっています。現在、日本の原油輸入はその約9割超を中東地域に依存しており、供給網の寸断は国内経済の安定を左右する脆弱性を抱えたままです。こうしたなか、株式会社日本総合研究所が公表した提言レポートは、これまでのエネルギー安全保障の常識を覆す新たな視点を示しています。それは、エネルギー問題の本質を海外からの「調達先を探す時代」から、国内に眠る富を「生み出し、育てる時代」へと大転換させるべきだという主張です。国内の自然条件を生かし、安全保障と経済成長を両立させる新たな選択肢として注目され始めています。

 日本は長らく「資源小国」と言われてきました。しかし、日本総研は国土の約4分の3を占める山地や豊富な河川、森林、地熱に着目し、これらを「山の国資源」と再定義しています。すなわち「山こそ日本最大の資源」と位置付けているのです。原油輸入の多くを中東に依存し地政学リスクにさらされる現状を踏まえれば、国内の自然条件を最大限に考慮した電源の多様化と、エネルギー自立度の向上を果たすことは、日本の経済安全保障における最重要テーマにほかなりません。

 この戦略において、最も象徴的なアプローチとして挙げられているのが、既存の治水ダムや多目的ダムの発電機能を大幅に高める可能性です。現在の日本における水力発電は国内発電量の約7%程度にとどまっていますが、レポートでは、既存の治水ダムの運用高度化や設備増強によって、現在の水力発電量に匹敵、あるいはそれを上回る発電ポテンシャルが期待できると独自試算しています。

 具体的には、最新の気象予測を活用した精密な水位運用といった運用の高度化や、放流水の有効利用を狙った発電設備の追加・更新を進める手法です。実際に、国土交通省が進める「ハイブリッドダム」の枠組みでは、治水容量と利水容量の共用や連携運用によって水力発電能力を拡張する取り組みが始まっており、実際の試行事例では1カ所あたり年間1,000MWhを超える増電効果が確認されたケースもあります。新たな大規模ダムを建設して自然環境を破壊するのではなく、すでに国内に存在する莫大なインフラストラクチャーという「ストックの高度利用」を軸に、水力の潜在能力を最大限に引き出す現実的な提案となっています。

 そして、この「山の国資源」戦略の真の主役は、単なるエネルギーの供給拡大ではなく、地域経済そのものの再設計、すなわち地方創生の実践モデルを構築することにあります。レポートでは、水力や地熱、バイオマスなどで得た電力を、地域のEVコミュニティバスの運行、地域データセンターの誘致、アクアポニックス(水産養殖と植物工場の複合システム)、蓄電池基地の運用、さらには災害時の非常用電源として活用する「山間地域の経済圏」構想を示しています。

 今後の地域モデルにおいて、ダムや小水力設備は単に電気を外へ送るだけの「独立した発電所」を増やすのではなく、「地域の産業と暮らしを支えるエネルギーハブを育てる」という発想への転換が求められます。エネルギーを電力会社や特定の産業だけの話にとどめず、地域経済全体の強靭な基盤として再設計することで、地方での新たな雇用創出や、人口減少下における地域サービスの維持・人口定着につなげていく構想です。

 国や自治体に対して日本総研は、こうした山間地域を対象とした「国家戦略特区」の指定や規制緩和を大胆に活用し、エネルギー関連技術とEV交通、データセンター、先端農業や観光などを組み合わせた総合プロジェクトを官民一体で推進することを求めています。あわせて、スタートアップ支援や企業集積、エネルギー技術を担う専門教育機関の整備を同時並行で進めることで、地域サービスを持続させる人材と企業を地元に根付かせる仕組みづくりを提唱しています。エネルギーを海外から「買う資源」として捉える時代から、国内で「育てる資源」として活用する時代へ――。日本総研の提言は、エネルギー政策を地域産業政策や経済安全保障と一体で考える新しい発想を示しています。

 脱石油依存への道は、単なる環境対策の枠組みを超え、国内の電源多様化と地域の自立的な経済圏づくり、そしてエネルギー安全保障と地域の持続性を同時に高める極めて総合的な経済政策の時代に入ったと言えそうです。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)