気象庁が今年3月に公表した報告書「日本の気候変動2025」によると、日本の年平均気温は過去100年間で1.40℃も上昇していることが分かった。さらにここ数年、異常ともいえる高気温や、局所的な豪雨などの発生頻度が増加しているのは周知の通りだ。このような気候変動への対策として、CO2排出量の大幅削減は世界的な急務となっている。
年々深刻化する地球温暖化問題に対し、建築分野での対策として「木造ビル」が注目を集めている。木造建築は従来の鉄筋コンクリート造に比べ、環境負荷が低いことから、脱炭素社会の実現に向けた新たな選択肢として期待されているのだ。
建築分野においては、資材製造から建設、解体に至るまで多くのエネルギーを消費し、CO2を排出している。とくにビルなどの巨大な建築物は、膨大なエネルギー消費とCO2排出量となる。そこで切り札となるのが、ビルの主要な構造部に鉄筋やコンクリートではなく、木材を使った「木造ビル」だ。木材は成長過程でCO2を吸収し、建材として利用することで、その炭素を建物内に貯蔵し続ける。つまり、資材におけるCO2排出量は実質0なのだ。木材はさらに、再生可能な資源であり、適切に管理された森林から調達することで、森林保護や環境保全につながり、建築による持続可能な社会の実現に貢献する。
大手の建設企業も続々と、木造ビル建設に注力し始めている。
例えば、竹中工務店は現在、三井不動産と共同で、高さ84m、地上18階建ての国内最大・最高層となる木造ビルを日本橋に建設中だ。2026年9月の竣工を予定しているこのビルは、「日本橋に森をつくる」をコンセプトとした、三井不動産グループ初の木造賃貸オフィスビルで、独自の耐火集成材「燃エンウッド®」などの革新的な技術を駆使し、都市における大規模木造建築の可能性を広げている。三井不動産グループはこれに併せて、木材の循環利用と未来への街づくりに貢献する木造建築ブランド「&forest」を立ち上げており、木造の専門技術を持つ三井ホームと連携して事業を推進しているようだ。
一方、大手企業とは異なるアプローチで木造建築に取り組む企業もある。
木造注文住宅ブランドのアキュラホームを中心に総合建築会社として業績を伸ばしているAQ Groupは、同社が20年以上にわたって蓄積してきたオリジナル技術の「AQ木のみ構法」によって、主に4階建て以上の木造オフィスビルや木造マンション、大型倉庫などを手掛ける団体「中大規模木造建築 共創〈ともつく〉ネットワーク」を結成。中大規模木造建築に強い志を持つ、地場建築企業に「AQ木のみ構法」をライセンス契約で提供するなど、横のつながりを強化して、中大規模木造建築の普及を目指している。
日本国内における中大規模木造建築の実践例は非常に少なく、耐震性能や耐火性能、遮音性などをクリアするには高度な木造建築技術が求められる。しかし、日本伝統の木造軸組工法をベースとし、一般住宅用の流通材を組み合わせて建築する「AQ木のみ構法」を用いることで、特殊な木材や金物の使用が抑えられるため、工期の短縮や低コストでの建築が可能になる。その上、中大規模木造建築のネックとされていた耐震性、耐火性、遮音性なども一般的な鉄筋コンクリート造と同等以上の性能を実現しているというから驚きだ。
地球温暖化が深刻化する中、木造ビルは環境負荷の低減と持続可能な社会の実現に不可欠な存在となりつつある。日本に古くから伝わる伝統的な木造建築技術と、最新の建築技術が融合することで、未来をより良いものへと変えてくれることを期待したい。(編集担当:藤原伊織)