低炭素社会に向けて、また一歩テクノロジーが前進した。
東日本大震災で災害時に活躍したことでクローズアップされたクルマからの電力供給。この時はトヨタの「エスティマHV」しか、この機能を持っていなかったために、唯一災害時に電気を供給できるクルマとして称賛を受けた。しかし、それから半年も経たないうちに、三菱自動車や日産も相次いでEVバッテリーからの電力供給システムを発表した。
先日公開された”LEAF to Home”システムは日産「リーフ」の大容量バッテリーの電力を一般住宅へ供給するとしたもの。これは、災害時などの非常電源としての役割はもちろん、夜間に貯められた電気を日中に供給する電力使用のピークカット・ピークシフトの実現、太陽光発電との連携によって系統電力消費の節約などの利点を持つ。トヨタや三菱自動車の電力供給システムは、クルマと家電製品を直接つなぐというものだが、日産のシステムは電力を住宅全体に供給するということで、さらに進んだシステムとして大いに注目を集めている。
そして、この日産の”LEAF to Home”実現の背景には大きく二つの要素が存在する。
まず、一つめはEVである「リーフ」に搭載されている大容量バッテリーだ。蓄電容量は24キロワット(満充電時)で、この値は日本の平均的な家庭の約2日分の電力消費量に相当する。さらに、電力を供給するにはPCS(電力制御装置)が重要な役割を果たす。この装置は急速充電インターフェースを改造し、”電力供給モード”を追加することで、双方向の電力交換を可能としており、急速充電に関する日本発の標準規格である「CHAdeMOプロトコル」がベースとなっている。
二つめは供給される側の住宅だ。今回、このシステム公開に住宅側として協力しているのが、大手ハウスメーカーの積水ハウス。「グリーンファースト」をはじめとする環境配慮型住宅の販売実績が高く、総務省の委託事業の一環として実施された「スマート・ネットワークプロジェクト」に唯一ハウスメーカーとして参加した幹事企業でもある。このシステムのお披露目でも使用されたのは、プロジェクトのお膝元である横浜みなとみらい21地区の「観環居」。同社はここで様々な検証を行ってきており、その経験やノウハウはこのシステム実現において重要なポジションを担う。今回のシステムでは、スマートハウスと連携することで、住宅側は供給された電力を効率よく使用し、さらに太陽光発電で得られる電力をクルマ側に供給するなど、システムの中核として機能する。
日産はこのシステムを2011年度中に販売開始したい意向を表明しており、既に販売されているリーフにおいてもソフトウェアの書き換えで対応できるとしている。また、積水ハウスは「スマート・ネットワークプロジェクト」終了後も、そこで得られた実証実験成果をもとに「観環居」においてスマートハウスの構築に向けた様々な検証を行っており、エネルギーと住まいの連携をより高度なレベルで実現できるためのノウハウを他社に先駆け蓄積していくだろう。
未曾有の大震災は人々にエネルギーの重要性を改めて認識させた。蓄電池の市場はますます伸長し、電力供給のスタイルは変化を余儀なくされるに違いない。しかし、視野を広く将来に向けたエネルギーの確保・使用でなければ低炭素社会は実現しない。そのためには、今回の”LEAF to Home”システムで見せた日産と積水ハウスのような先進の取組みをどんどん社会に向けて発信しなければ、蓄電池はただの防災グッズになり兼ねないし、クルマと住まいの連携は早期に実現しないだろう。