今回のニュースのポイント
第一三共の2026年3月期決算は、売上収益が2兆1,230億円と過去最高を更新しました。主力の抗がん剤「エンハーツ」が世界的に拡大を続けていることに加え、新薬「ダトロウェイ」の売上寄与も始まっています。損益面では、製造委託先への損失補償といった一過性の費用や、次世代新薬への積極的な研究開発投資により営業利益は減益となりましたが 本業の収益力を示すコア営業利益は15.1%増の3,600億円と好調を維持 。独自の抗体薬物複合体(ADC)技術を軸に、世界トップクラスのがん創薬企業への転換を加速させています。
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第一三共の2026年3月期決算は、売上収益が2兆1,230億円に達し、過去最高を更新する増収決算となりました。この躍進を牽引しているのは、がん領域の売上収益が全体の半分強を占めるメイン事業に成長したことです。一方で、損益面では、エンハーツの製造委託先に対する損失補償など一過性の費用1,530億円を計上したことに加え、アストラゼネカとの共同販売体制拡充や5つの主要ADC製品(5DXd ADCs)の開発加速に伴う販管費・研究開発費が増加し、営業利益は2,291億円と前期比31.0%減となりました。
売上収益が急拡大した背景には、がん治療の選択肢を広げた「エンハーツ」のグローバルな普及があります。米国や欧州での販売が大きく伸長したほか、中国市場でも複数の適応症で承認を取得しました。さらに、TROP2標的のADC製品「ダトロウェイ」が欧米で発売されたことも増収に寄与しました。また、円安の進行による為替の増収影響218億円も業績を押し上げています。研究開発費は4,621億円(前期比6.8%増)に達しており、ADCを中心としたパイプライン拡充への投資を継続しています。
同社の成長の核である「エンハーツ」は、抗体薬物複合体(ADC)と呼ばれる技術を用いた薬剤です。抗体によってがん細胞を狙い撃ちし、直接薬物を届けるこの技術は、HER2低発現の乳がんにおいても高い有効性を示し、世界の標準治療を塗り替えつつあります。第一三共はこの「DXd ADC」技術で世界のリーダーポジションを確立しつつあり、乳がんのほか、胃がん、肺がんなど複数がん種での世界標準化を推進しています。
今後の戦略として、同社は5DXd ADCsを中核に 、2030年度にがん領域売上収益2.3兆円超、2035年頃にがん領域でグローバルトップ5入りを目指す中長期ビジョンを掲げています。また、臨床データやリアルワールドデータを活用したAI創薬・データ駆動型開発を今後の競争力源と位置付けており、創薬の成功確率向上と期間短縮を図る方針を鮮明にしました。
市場が注目しているのは、この成長速度とともに強化される株主還元姿勢です。当期の年間配当は前期から18円増配の78円となりましたが、次期はさらに22円増配の100円を予想しています。また、最大2,000億円規模の自己株式取得枠を設定し、取得した全株式を消却するなど、成長投資と資本効率向上のバランスを重視しています。新たに導入した「累進配当」の方針は、持続的な利益成長への自信の表れと言えます。
今回の第一三共の決算では、日本の製薬会社が単なる国内医薬メーカーではなく、世界のがん治療市場で存在感を高める段階へ入っていることが改めて示されました。AIやデータ活用を組み合わせた次世代創薬競争の中で、日本発のADC技術がどこまで世界標準として競争力を維持できるか、今後の開発戦略に注目が集まっています。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)













