木造は“郊外住宅”ではなくなった 東京で始まる都市建築の変化

2026年05月30日 19:00

木造マンション住宅

脱炭素や国産木材活用の流れも追い風となり、東京の建築風景が変わり始めています。

今回のニュースのポイント

AQ Groupは東京都内で純木造マンション「AQフォレスト」シリーズ第3弾・第4弾を始動しました。これまで木造は戸建て住宅中心というイメージが強かった一方、近年は建築コスト高騰や、木造の耐震・耐火技術の進化を背景に、“都市木造”への注目が高まっています。脱炭素や国産木材活用の流れも追い風となり、東京の建築風景が変わり始めています。

本文
これまで「木造」といえば、地方や郊外の平屋、あるいは2階建ての一戸建て住宅を連想するのが一般的でした。しかし現在、日本の首都・東京の都市建築において、その常識を覆りつつあります。木造建築企業の株式会社AQ Groupは、東京都墨田区の両国および練馬区の石神井公園において、構造体に鉄やコンクリートを一切使用しない純木造の4階建て高級賃貸マンション「AQフォレスト」シリーズ第3弾・第4弾を相次いで始動しました。

 都内の駅近くや狭小地において、中大規模の「木造マンション」が連続的に計画される背景には、単なる環境配慮へのアピールにとどまらない、極めて合理的かつ現実的な経済的要因が横たわっています。

 なぜ今、都市部で木造建築が急浮上しているのか。その最大のトリガーとなっているのが、鉄筋コンクリート(RC)造の建設コスト高騰と深刻な人手不足です。世界的な資材高や人件費の上昇はRC造の建築費を大きく押し上げており、開発事業者にとって収益性の確保が死活問題となっています。

 これに対して木造の「AQフォレスト」は、資材全体の軽量さから基礎工事にかかる費用を抑えられるほか、工場で精密にあらかじめ加工されたプレカット材を使用することで、現場での工期を大幅に短縮できる強みがあります。同社は一般流通材を活用した合理的な設計により、「中大規模木造はコストが高い」というこれまでの固定観念を覆し、RC造と比較して約10〜30%ものコスト削減を実現しています。建設業界が直面する「資材高」「人手不足」「工期長期化」というトリプル苦を打破する現実解として、木造へのシフトが進んでいます。

 都市のビル群に木造が参入できるようになった背景には、建築技術のめざましい進化があります。「木造は火に弱く、地震に脆い」というイメージは、すでに過去のものとなりつつあります。AQ Groupが展開する純木造マンションでは、耐震等級、耐火等級、劣化対策等級のすべてにおいて最高等級の取得が予定されています。

 墨田区両国の物件では、間口が狭く奥行きがある都内特有の狭小地において、オリジナル高耐力壁をバランスよく配置することで、居住空間の広さと強固な耐震性を両立させています。また、練馬区石神井公園の物件では、中大規模建築で評価を得た「高耐力組子格子耐力壁」をシリーズで初めて導入し、高いデザイン性と構造強度を融合させています。さらに、独自の標準仕様のみで「東京ゼロエミ住宅」の最高水準である「水準A」認証を過半数の住戸で取得するなど、RC造に匹敵する耐久性と極めて高い省エネ性能が実証されています。

 この都市木造の広がりは、東京をはじめとする大都市圏で進む「単身化」やコンパクト住宅への需要とも見事に噛み合っています。両国や石神井公園のプロジェクトは、いずれも最寄り駅から徒歩圏内という利便性の高い立地にあり、東京中心部へ通勤する20代から30代の単身層や、ハイエンドな居住環境を求める層を明確なターゲットとしています。
木のぬくもりを活かした意匠性と、優れた断熱性・快適性を兼ね備えた高品質な木造賃貸は、都市に住む若い世代のニーズを的確にとらえています。先行して竣工した大宮や赤羽の物件が即日満室となった実績が示す通り、都市居住における新たな高付加価値カテゴリーとして機能し始めています。

 こうした実需の強さは、不動産投資や資産価値に対する市場の目線をも変えつつあります。従来の不動産市場では「木造=法定耐用年数が短く、資産価値が早く減少する」と一律にみなされがちでした。しかし、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資への関心がグローバルで高まるなか、建築時に大量のCO2を排出するコンクリートから、炭素を長期的に固定できる木造へと切り替えることは、機関投資家や不動産ファンドから「ESG不動産」として高く評価される要因になります。

 加えて、RC造と比べて将来的な間取りの変更やリフォームといった「可変性」に優れている点も、投資物件としての長期的な収益維持に貢献します。再開発が進む都心一等地の複合賃貸において、コストを抑制しながら高い環境認証と収益性を両立できる木造マンションは、有力な投資対象へと格上げされつつあります。

 さらに、都市で木材が大量に消費されることは、地方の林業活性化や森林の健全な循環というマクロ経済的な波及効果をもたらします。日本は国土の約3分の2を森林が占める有数の森林国でありながら、戦後に植林された人工林が利用期を迎えつつも十分に活用されてこなかった歴史があります。

 都市の商業ビルや賃貸マンションを「木で建てる」という建築グリーントランスフォーメーション(建築GX)の推進は、国産木材の需要を国内最大の消費地である東京で創出することを意味します。都市の資本が木材の購入を通じて地方の林業へと還流し、適切な伐採と再植林が行われることで、日本の森林が持つCO2吸収機能や国土保全機能が維持されます。都市木造は、単なる一企業の住宅ビジネスではなく、都市と地方を環境・経済の双方でつなぐ持続可能なサプライチェーンの構築に寄与しています。
かつて大量生産・大量消費の象徴であった東京のビル群は、技術の進化、建設コストの現実、および脱炭素への世界的な潮流を背景に、その素材から変化を遂げようとしています。AQ Groupは都内でさらに9物件の開発計画を進めており、この都市型木造マンションの普及を加速させる構えです。

 「木造は郊外のもの」という古い境界線が消え去るなか、脱炭素社会を目指す「木で建てる」という選択肢は、東京の都市建築において今後さらに広がっていく可能性があります。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)