燃費30km/L、ダイハツ「e:Sテクノロジー」開発までの道のり

2011年07月25日 11:00

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「e:S(イース)テクノロジー」が注ぎ込まれた、9月発売予定の新型車のプロトタイプ。

 ダイハツ が9月に発売を予定している新型車に合わせて開発を行ってきた「e:S(イース)テクノロジー」が公開され、話題を呼んでいる。      公開されたプロトタイプは、2009年の東京モーターショーで注目を浴びたコンセプトモデルと比較すると、ボディデザインにも変更が加わり、他の部分でのテクノロジーに関しては2年間で驚くほど進化していた。

 その代名詞とも言える、JC08モードでの30キロメートル/リットル達成(11年7月現在)だが、ガソリン車では唯一の測定値となり、まさにHVに迫る勢いの燃費性能だ。加えて80万円を切ると予想されるエントリーモデル、100万円を切るであろうレギュラーモデルといった低価格が消費者に興味を抱かせる。ダイハツではこの新型車を”第3のエコカー”と位置付け、新たな軽自動車の市場形成を狙う。

 この話題のテクノロジーだが、実は支える柱として”3つの進化した要素”が挙げられる。

 ひとつめは”パワートレインの進化”だが、ここでは燃焼効率向上のために8項目にわたる改善を行い、「i-EGRシステム」の採用によりポンピングロスを大幅に低減、さらにメカニカルロスを極限まで低減させるために11項目の改善を行うなど、磨き上げられた技術を最大限に生かした新エンジンを導入した。また、このエンジンに軽量な樹脂製電子スロットルボディを採用したことで、CVTが最も効率の良い状態を維持することが可能になった。そして、CVTは動力伝達効率を以前の物より向上させたことで、エンジン負荷を低減する進化したギアとなった。

 次に、”車両の進化”においては、まず安全性や乗り心地に必要なボディ剛性の維持を前提としたシェルボディの骨格を、部材の配置見直しや補強材の削減するための形状最適化により約30キロ軽量化し、同時に内装及び動力パーツの見直しによる軽量化を図ったことで、全体で約60キロの軽量化を実現した。さらに、走行抵抗の低減を実現するために、デザイン段階から風洞実験などを実施し、空気抵抗を低減させることを行った。加えて、低転がり抵抗タイヤの採用と駆動系パーツの改善により転がり抵抗を低減させた。

 そして三つめは”エネルギーマネジメントシステムの進化”だ。ここではCVT車としては世界初の停車前アイドリングストップ機能を持つ、新「eco-IDLE」を採用した。同社のこのシステムはブレーキ時、7キロメートル/時以下になるとエンジンは停止し、アイドリング時間を増加させ、燃費性能を向上させることが可能だ。もうひとつ新システムとして、減速エネルギー回生機能付きの「エコ発電制御」を採用し、減速時に発電量を増加させ、通常は加速時に行う発電を大幅に制御し、エンジンの負荷を低減させた。

 このようなゼロからの新型車づくりを、しかも一般的にかかる期間の半分程で行ったのだから、開発における裏話的なものも多く存在する。

 今回、このプロジェクトの統括責任者を務めた同社技術本部・上田亨エグゼクティブチーフエンジニアは「09年の東京モーターショーでコンセプトモデルの『e:S』を発表してから2年で、何とかここまでの物を創りあげられた。当時、展示していたクルマは今回発売予定のものとは違い、3ドアで全長も短かった。ここからデザインを見直し、技術的には10・15モードで30キロメートル/リットルだった燃費性能をJC08モードで30キロメートル/リットルまで向上させるために、エンジン性能のアップはもちろん、ボディ重量の軽減など徹底して細部まで見直した。通常4年はかかるゼロからの開発をこのように半分の期間でできた最大の理由は、プロジェクトに関わるスタッフの配置や指示系統など分散していたものを変革し、全てを一元化で管理する体制を作ったこと。そのおかげで、1年かかる意匠開発の承認を半年でクリアできるなど、様々な所で好影響となった」と語った。

 「e:Sテクノロジー」成功の裏には、エンジン開発やデザインなど優れた技術力の他に優秀な組織マネジメントという技術力も加わっていた。 さて、このダイハツが誇る新型車だが、9月の発売に向け順調にスケジュールをこなし、間もなくお披露目となる。