現在、世界のバイオ医薬品の開発・製造受託市場規模は約23億米ドルで、今後も年平均10%超の成長が見込まれている。バイオ医薬品とは、主に遺伝子組換え等のバイオテクノロジーを活用することでタンパク質やペプチド、核酸などにより形成された医薬品。近年の市場成長の要因としては、これまで治療が困難だった疾患への適用が可能であり、安全性が高く最小限の副作用で高い効能が期待されることから、北米を中心に急成長を遂げているという。
そのような中、味の素<2802>は米国のバイオ医薬品の開発・製造受託会社であるアルテア・テクノロジーズ社の発行済全株式を約175百万米ドル(約160億円)で取得することについて合意に達したという。
アルテア社は、バイオテクノロジー企業が集積する米国のサンディエゴ市で1998年に創業し、現在、バイオ医薬品のcGMP製造・開発サービスから製剤化までを手掛ける、製薬企業を顧客とする開発・製造受託会社。同社はバイオ医薬品の製造に必要とされている各工程での高度な技術や厳格な品質管理・ノウハウを有していることから、顧客の高い評価を得ている。一方、味の素は100年にわたるアミノ酸事業の中で培ってきたバイオテクノロジーを応用して、独創的なタンパク質の製法開発受託事業であるCORYNEX(R)(コリネ菌(グルタミン酸生産菌)を用いて、タンパク質・抗体医薬品などバイオ医薬品の生産を効率化する先端技術を活用した事業)を推進してきた。
今後、味の素は独自のバイオテクノロジーと、アルテア社が持つ高度な技術、経験豊かな人材、cGMPに準拠した開発・製造機能を組み合わせることにより、世界最大の北米市場を中心にバイオ医薬品の開発・製造サービス事業を更に拡大し、味の素グループのバイオ先端医療分野における事業を強化・推進。また、アルテア社の現行の経営資源(経営陣および従業員など)を最大限活用して事業基盤強化・拡大を図り、新会社を含め、急成長するバイオ先端医療分野全体で2020年までに売上高300億円超を目指す。
またすでに昨年10月には、米国のLigoCyte Pharmaceuticals,Inc.を、武田薬品<4502>の100%子会である武田アメリカ・ホールディングスInc.が買収している。LigoCyte社は、独自のウイルス様粒子(Virus-Like Particle:VLP)技術に基づく新規ワクチンの開発に特化しているバイオ医薬品企業。同社のVLP技術は、様々な遺伝子型のノロウイルスに対してワクチン作製を可能にするものであり、既にワクチン投与後にノロウイルスを負荷投与する臨床試験で予防効果が見られている。米国、欧州、その他の各国での承認を目指して、現在、臨床第1/2相試験を実施しているという。この買収により武田薬品は、グローバルなワクチン市場でのプレゼンスを向上させ、ワクチンパイプラインを強化できるだけでなく、武田薬品の開発、販売基盤を活用し、そのパイプラインの着実な上市、販売を実現することで、持続的成長が可能となった。
バイオ医薬品市場は、先進国の高齢化に伴う需要拡大や、難病の治療薬提供など、今後も大きな成長が見込まれていることは確かであろう。現在、他の日本企業各社も米国のバイオ医薬品企業との提携や合併を模索しているようだ。今後の動向に注目していきたい。(編集担当:宮園奈美)