【コラム】国立国会図書館関西館の地下に「シェルター」を

2025年07月27日 09:56

火薬庫説明会

祝園分屯地火薬庫建設での住民説明会で質問する住民=24日

 京都南部から奈良北部、大阪府北東部に広がる関西学研都市。この学研都市内に東京ドーム約100個分の広さの陸上自衛隊祝園(ほうその)分屯地(京都市精華町~京田辺市)がある。

 この分屯地で今、西日本最大規模の「火薬庫」が造られようとしている。有事の際の「継戦能力」(継続して戦う能力)保有のための火薬庫という。

 分屯地から約4キロメートルの所には近鉄学研奈良登美ヶ丘駅、約7キロメートルには近鉄学園前駅があり、住宅が密集する。半径10キロ圏内には京都府南部はもちろん、奈良市、生駒市、枚方市、寝屋川市が含まれる。

 火薬庫は海上自衛隊と共有する。イージス艦に搭載する射程1000キロメートルの「1(ひと)2(ふた)式地対艦ミサイル能力向上型」や米国製巡航ミサイル「トマホーク」など長距離ミサイルが保管されるとの見方もある。防衛省は「どのようなものを保管するのか明かすことは自衛隊の能力を明らかにすることになる。ご理解頂きたい」と保管内容の回答は避けている。

 計画では1棟に最大40トンの弾薬保管機能を持たせる。14棟建設の予定。このうち8棟は近々、建設に向け造成に着手する、その後、火薬庫本体の建設に入る。27年度完成を目指す。更に新たに3棟についても設計段階に入っているという。

 火薬庫建設に不安を抱く住民も多く、地元自治体は「安全性」や「建設計画」について住民への説明を防衛省に要請。これを受けて今月22日に京田辺市で、24日には精華町で説明会を開いた。精華町では26日にも住民説明会を設ける。

 22日も、24日も各会場、100人を超える住民が参加し、関心の高さをうかがわせた。防衛省から大竹晃人近畿中部防衛局企画部長ら7人、陸自から2人、地元自治体から数人が出席し、住民の質問にも応じた。

 防衛省は「防衛力の抜本的強化の一環で、持続性・強靭性確保へ、弾薬の製造量に見合う火薬庫の確保を進める。祝園分屯地は『火薬類取締法』に基づく必要な保安距離を十分に確保でき、必要な地盤強度も確保。部隊運用上の利便性も良い」と説明し、建設に適地と判断したとした。

 そのうえで、分屯地の敷地の広さから新たに用地取得し、施設を拡張する必要もない旨を説明した。

 どのような種類の弾薬をどのくらい保管するのかは示せないが「これまで通り、安全に暮らしていただける」と安全性を強調。火薬庫は震度6強から震度7にも対応する耐震強度を備えた施設になる、とし「火薬類取締法などの関係法令に基づき、必要な保安距離を確保する」と理解を求めた。

 分屯地周辺の農業者からは基地からの排水を懸念する声があった。これには「調整池を設置し、集中豪雨の際に河川への水流を抑止する。造成工事で生じる濁りは濁水処理プラントで処理したうえで排水する」と説明した。

 分屯地から1キロメートル圏内に住宅開発計画があり、弾薬庫があれば住宅価格を下げて売らなければならなくなる。国、自治体はどのように補償するのか、との問いも出た。町は「学研都市の価値を棄損するのではないかということだが、これまでも(防衛省から)補助金を頂きながら、町の資産価値を引き上げている」と説明した。

 ただ、防衛省は火薬庫について、火薬類取締法に基づき弾薬保管、管理について安全確保へ万全を期していると強調したが、武力攻撃を受けた場合を想定して火薬庫を設計しているのか。これに対する説明はなかった。24日の説明会で住民から質問が無かったこともある。

 しかし、有事になれば空中戦を優位にし、継戦能力を喪失させるため、空港と火薬庫は攻撃の第一目標になるはず。武力攻撃を想定しない強度の火薬庫で「安全性が担保されている」とは言えないだろう。空爆やミサイル攻撃に耐えうる堅ろうな構造物にすべき。

 防衛省近畿中部防衛局は武力攻撃を受けた際の火薬庫の安全性について「今般整備します火薬庫につきましては火薬類取締法等の関係法令に基づいて安全性を確保したうえで防衛省・自衛隊として十分な強靭性を備えた施設整備を行うことにしています。具体的にどこまでの武力攻撃に耐えうる強靭性を備えるかについては、自衛隊の能力が明らかになる恐れがあるためお答えは差し控えさせていただきます」と回答している。

 実は精華町は防衛省にCBRN(生物・化学・核兵器や放射性物質による攻撃)に防御しうる建築物・装置は建設されるのか、と質問をしていた。これに昨年1月、近畿中部防衛局は「施設の機能・重要度に応じ、防護性能を付与しており、構造強化などを実施していくことになる。その詳細について明らかにすることは自衛隊の能力が明らかになる恐れがあるためお答えは差し控えさせていただくことをご理解ください」と答えており、武力攻撃も想定した一定対策を実施することを伺わせた。

 では万一、武力攻撃を受けた際、住民らの安全確保はどうなるのか。24日の説明会で住民から、万一の際の緊急避難先に「学研都市内の国立国会図書館関西館の地下にシェルター(武力攻撃を想定した避難施設)をつくってほしい」との要望があった。

 西日本最大級の火薬庫を備える地域なら住民が安心できるシェルターを国の責任において対応する必要があるだろう。国は先島諸島にはシェルター設置を予定している。

 地域と自衛隊との信頼関係、これまでも祝園分屯地地域では共存を果たしてきているが、新たな火薬庫設置を踏まえた共存を図るにはシェルターは無茶な要望でもないだろう。国、自治体は耳を傾け、安心を提供していただきたい。(編集担当:森高龍二)