障害者法定雇用率の引き上げは最善最良の策なのか

2012年11月19日 11:00

 実質的に65歳定年制を推し進める「改正高年齢者雇用安定法」が施行される平成25年4月1日。賛否両論が飛び交うこの改正とは対照的に、あまり話題には上らない雇用制度に関する改定も同日から実施される。それが「障害者の雇用の促進等に関する法律」に基づく法定雇用率の変更である。

 障害者雇用促進法では、障害者雇用率制度が採用されている。障害者雇用率制度とは、身体障害者及び知的障害者について、一般労働者と同じ水準において常用労働者となり得る機会を与えるもので、常用労働者の数に対する割合(障害者雇用率)を設定し、事業主等に障害者雇用率達成義務を課すものである。この義務を履行しない事業主には、雇入れ計画作成命令などの行政指導がなされるとともに、その後も改善が行われない場合には企業名が公表されることになる。今年3月には、スカイマーク と株式会社ホスピタリティの2社が、改善が見られないとして公表され、株式会社RAJAに関しては、平成22年3月に公表されたものの、依然として改善が見られないとして今年も公表されている。この障害者雇用率が平成25年4月1日から、民間企業で現行1.8%であるものが2.0%に、国・地方公共団体等で2.1%から2.3%に、都道府県等の教育委員会で2.0%から2.2%に引き上げられるのである。

 厚生労働省によると、平成23年度の障害者への新規求人件数は前年度比11.8%増、就職件数は同12.2%増となっており、就職率も40%と同0.1%増加し、2年連続で上昇している。また、11月に発表された「平成24年障害者雇用状況の集計結果」によると、民間企業における雇用障害者数は38万2363.5人(短時間労働者は1人を0.5人と、重度身体障害者・重度知的障害者は1人を2人としてカウント)と前年比4.4%増加。公的機関においても、雇用障害者数及び実雇用率のいずれもが前年を上回っている。この数字だけを見れば、順調に障害者雇用が進んでおり、社会や企業において障害者が就労する環境が整いつつある様子がうかがえる。その為、障害者雇用率の引き上げも自然な流れと言えるであろう。

 しかし、同集計結果によると、法定雇用率達成企業の割合は46.8%と前年比では1.5%上昇しているものの依然として低いのが現状であり、実雇用率も1.69%と、法定の1.8%に届いていない。また、公的機関における実績は、国や都道府県・市町村などでは法定雇用率を達成しているものの、教育委員会は未達となっており、先導すべき機関においても順調に進んでいるとは言えない状況にある。

 特に、企業規模が小さくなればなるほど実雇用率は下がっており、従業員が56人~100人規模の企業における実雇用率は1.39%と最低である。障害者を雇用するための社内インフラ整備や人件費など経済面での壁が高く、雇用できる環境にない状況を表しているのではないだろうか。法定雇用率未達成企業の内、不足数が0.5人又は1人の企業は65.0%、障害者を一人も雇用していない企業は61.1%であることも、中小企業が新たに人一人を雇うことに対するハードルの高さを窺わせる数字と言えるであろう。

 こうした中での法定雇用率の引き上げである。民間企業においては、雇用しなければならない事業主の範囲が、従業員56人以上から50人以上へと引き下げられるということとなる。2012年7月~9月期の実質GDP成長率がマイナス0.9%(年率マイナス3.5%)という中で、ただでさえ厳しい環境にある中小企業の負担がさらに増すと言えるのではないだろうか。定年を引き上げると同時に障害者も雇用する義務が発生するとなれば、どこかにしわ寄せが生じる。極端な例ではあるが、高齢者・障害者を雇いいれるために、若年者を解雇する企業も増えるかもしれない。

 「共生社会」の実現といった理念や、障害者が自立するための施策というのは必要なものである。その施策をさらに推し進めるために、法定雇用率を上げるのも自然な流れであろう。しかし、現在の未達成率やその原因等からして、本当に「今」とるべき方法であったのであろうか。そして根本的に、障害者雇用率制度の対象となる企業及び雇用義務人数が、単純に総従業員数による点には問題があるのではないだろうか。