サイバー犯罪を支えるネットワーク基盤の遮断を表現したイメージ。警察庁とMicrosoft、JC3による調査を受け、米裁判所の命令に基づき、犯罪者向けサービスを支える関連インフラのテイクダウンが実施された。(画像はイメージ)
今回のニュースのポイント
警察庁はMicrosoft、JC3と連携し、日本を標的とするフィッシングの犯罪インフラを特定した。Microsoftによると、YAM Store、CoGUI、Iron Manの3サービスを通じ、2026年1月以降、世界7万5,000超の組織に10億通超の悪意あるメッセージが送信された。米裁判所の命令に基づき、ドメインの差し押さえや接続先変更など、犯罪者にツールや偽サイトを供給するサービス市場の関連インフラがテイクダウンされた。
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日本の個人や企業を標的としたフィッシング詐欺の追跡調査から、世界規模でサイバー犯罪者にツールやインフラを提供する地下の「サービス市場」の存在が浮かび上がりました。警察庁は、Microsoftや一般財団法人日本サイバー犯罪対策センター(JC3)と連携して実態解明を進め、特定された犯罪インフラに対してMicrosoftなどが米国の裁判所を通じて民事訴訟を提起しました。2026年10月8日に発布された米国裁判所の命令に基づき、Microsoftなどが関連ドメインの差し押さえや接続先変更などのテイクダウンを実施しました。
Microsoftが10月14日に公表した調査結果によると、解体対象となったインフラ群(YAM Store、CoGUI、Iron Man)を通じ、2026年1月以降だけで世界7万5,000超の組織を標的に10億通超の悪意あるメッセージが送信されていました。このうちMicrosoftの顧客を狙ったものだけで7億5,000万通を超え、標的は150カ国以上の消費者、医療機関、金融機関、企業に広がっていました。運営者は数千万ドル規模(数十億円相当)の利益を得ていたとみられています。
今回実態が解明された地下市場は、犯罪に必要な機能が商品・サービスとして細分化された構造を持っていました。「YAM Store」は一般的なECサイトのように運営されており、不正取得されたMicrosoftやGoogleのアカウント、認証情報を盗み取るための既製ツールなどが販売され、利用者は価格比較や購入が可能でした。また、失効したドメインを再構築して企業を装い、不正アカウントを開設する手口も確認されました。
さらに、偽サイトやメッセージの展開を支援するサービスも用意されていました。「CoGUI」は信頼される企業や政府機関を装う偽Webサイトやメッセージを提供し、犯罪者が一からページを制作しなくてもパスワード等を盗む環境を短期間で構築できる仕組みでした。2026年半ばからは「Iron Man」と呼ばれる新しいサービスへの移行が進み、150カ国以上の銀行、医療機関、警察などの機関を装う2,300超のなりすましテンプレートが確認されました。
経済的な観点から見ると、今回の事例はサイバー犯罪の「サービス産業化・分業化」を示すものです。正規のデジタル経済で広がる外部サービスの活用と同様に、犯罪市場でも必要な機能を分業・外部調達する仕組みが形成されていました。こうしたサービス市場では、攻撃者が偽サイトやツールなどをすべて自前で用意する必要性が低くなります。犯罪に必要な機能を外部から調達できる仕組みは、サイバー犯罪への参入障壁を下げる可能性があります。
今回の国際共同対処の端緒となったのは、日本国内での調査でした。警察庁資料によると、関東管区警察局サイバー特別捜査部とMicrosoft、JC3が2025年10月から日本をターゲットとしたフィッシングの実態解明を開始しました。警察庁とMicrosoftは、2025年5月にインド当局と共同で実施したサポート詐欺摘発を機に連携を深めており、2026年9月には日本Microsoftと警察庁が連携協定を締結していました。日本を標的とする攻撃の追跡が、世界規模の地下経済網の特定へとつながりました。
10月6日の米国裁判所への訴訟提起と、8日の命令発布を受け、Microsoftと業界団体のHealth-ISACは対象となる3サービスを支えるドメインを差し押さえ、接続先を変更しました。Microsoftは「YAM Store」に関連する2万件超のアカウントを無効化したほか、自社サービス上でホストされていたインフラを削除し、なりすましや詐欺に利用された10万件超のドメインをブロックしたとしています。
今回の対応は、個別の詐欺メッセージや偽サイトへの対処にとどまらず、多数の犯罪者が依存するツールやインフラの「供給元(サプライチェーン)」そのものを遮断する手法です。もっとも、Microsoftは今回の3サービスについて巨大な犯罪ネットワークの一部にすぎないと説明しており、これで国際的なフィッシングが皆無になったわけではありません。
日本を標的としたフィッシングの調査を起点に、警察、IT企業、サイバー犯罪対策組織、米国の司法制度を通じた連携が、犯罪の「ビジネス基盤」を対象とする遮断措置につながりました。今回の事例は、個々の攻撃への対処に加え、犯罪者にサービスを供給する基盤そのものを断つ取り組みの一例となっています。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)













