近い将来、空港の手荷物検査の風景が変わるかもしれない。目的物の中身を透過し確認できる技術として、日々生活の中でも使用されているX線。先日、このX線を使った透過画像化に代わる新しい技術が、パイオニア<6773>とローム<6963>の研究グループから発表された。それが、テラヘルツ波の発振・検出に小型半導体素子『共鳴トンネルダイオード』を用い、物体内部の透過像の取得などといったテラヘルツイメージングに世界で初めて成功したというものである。
テラヘルツ波は、光と電波両方の特性を兼ね備えている電磁波であり、光のような直進性と電波のような透過性を持っている。X線よりもエネルギーが低く、人体に影響のない安全な電磁波なため、空港の荷物検査などのセキュリティ分野や医療分野、食品の品質管理分野への応用が期待されているという。
これらの分野では、従来室温で安定的かつ直接的にテラヘルツ波を発振・検出できる小型で安価な半導体デバイスがなかったため、機器の小型化と低コスト化が大きな課題となっていた。しかし、ロームが2011年に1.5mm×3.0mmという小型サイズでありながら、1つのチップでテラヘルツ波の発振・検出ができる素子「共鳴トンネルダイオード」の開発に成功。今回、パイオニアが光ディスクドライブ用ピックアップで培ってきた光学技術を基に開発したリレーレンズとロームの素子を組み合わせることで、テラヘルツ波の集光が可能な共鳴トンネルダイオードモジュールを試作することに成功したという。両社は今後、さまざまなテラヘルツ応用分野に向けて研究開発を進め、小型で安価なテラヘルツイメージングシステムの実現につなげていく方針だ。
このような高い技術力を持つ企業同士が手を組み、新しい価値を創造しようとする動きは、今後の大きな経済効果へとつながっていくことが期待される。歴史的な円高も終わり、円安基調に振れているが、日本製品は価格競争というフィールドにおいては、もはや新興国勢に太刀打ちできないところだ。そこで必要となってくるのが技術力という付加価値。世界からも尊敬される日本の技術力が、新しい日本の強さを作る原動力になっていくことは確かなようだ。(編集担当:北尾準)