株式会社村田製作所 <6981> が昨秋に発売した新しいスピーカーシステム「ES701 Suono京」が、オーディオファンの間で話題を呼んでいる。Suono(スオーノ)とは、一般的には聞きなれない言葉だが、イタリア語で”音”を意味する言葉。さらに、同社の本社所在地である京都で開発されたことから”京”という文字を付け、「ES701 Suono京」というわけだ。商品名からも、ムラタの本気と自信が窺える。
村田製作所といえば、セラミックス製品をベースに世界中のエレクトロニクス関連企業を相手に事業を展開する、日本を代表する電子部品の総合メーカーである。
そのムラタが、何故にスピーカーなのか。
村田製作所では、以前より半球圧電セラミックスを使ったハーモニックエンハンサーを開発し、とくに球形圧電セラミックスの良好なトランジェント特性には、多くのマニアや専門家などからも高い評価を得ていた。圧電セラミックスを半球形状に焼成した振動板に音楽信号が加わると、セラミックスが膨張と伸縮を繰り返しながら発音する。すると、音の指向性が広がり、点音源の上質なサウンドを楽しむことができるのだ。
また、音の立ち上がりや立ち下りが時間的に遅れることなく再生されるので、低音から高音までの急激な音域変化にも柔軟に対応し、生音に近い表現力豊かな演奏を忠実に再現してくれる。
しかし、ハーモニックエンハンサーは既存のシステムへ装着する、いわゆる「スーパーツィーター」と呼ばれるサポート的な役割のものでしかない。そこで、村田製作所はハーモニックエンハンサーの技術を生かしてブックシェルフ型スピーカー「ES701 Suono京」を昨秋発売した。当然、外付けのものよりも、その特性が最大限に発揮できる構造になっている。
すでに発売されていたハーモニックエンハンサーの高い評価もあり、発売前からオーディオファンの間で話題に上っていたが、実際に発売が開始されると、ファンのみならず、ごく普通の家庭にも普及しているという。その理由の一つとして、DVDやBlu‐ray、また地デジ化に伴う高画質テレビの普及が挙げられるだろう。純粋に音楽を楽しむだけでなく、高画質の映像作品を「より良い音で楽しみたい」という欲求は誰しもが思うことだ。
「ES701 Suono京」をAV機器に接続すれば、リビングにいながら映画館顔負けの音響効果を楽しむことができるのだから、音楽ファンならずとも興味を示すのは当然ともいえる。
しかし、「ES701 Suono京」は決してお安い商品ではない。
メーカー小売希望価格では168,000円(税込み・1ペア)。一般家庭にとっては、かなりの贅沢品である。にもかかわらず、発売開始以来、着実に売り上げを伸ばしている。
日本の多くの産業がデフレ傾向にある中、同製品は安易に価格を下げるのではなく、卓越した技術力と、それを最大限に活かしたオリジナル性で堂々と勝負に出て、好成績を出しているのだ。「ES701 Suono京」の人気は、いくら不況とはいえ本当に価値のあるものにはたとえ高価でも需要があるという良い実例ではないだろうか。
(編集担当:藤原伊織)