飯島内閣官房参与の北朝鮮訪問の深層を読む

2013年05月31日 18:19

 飯島内閣官房参与の電撃的な北朝鮮訪問が、さまざま波紋を広げている。北朝鮮は、平壌空港に降り立つ飯島氏の様子を国営テレビで放映したり、北朝鮮のナンバー2・金永南最高人民会議常任委員長との会談をセッティングして、その模様もテレビ放映した。このように飯島氏訪朝に関する対外的なアピールが凄かった。こういったことをみて、北朝鮮が国際社会での孤立を否定するための宣伝材料として日本が政治的に利用されたとする報道もある。北朝鮮がそれを意図しているのは当然なことだろう。それが国益なのだから。国同士が動けば、すべてが政治的なのだ。お友達同士のティーパーティではない。しかし何も日本は利用されただけではない。このような北朝鮮の行動は事前にわかっていたはずである。今回の安倍政権は、なかなか緻密でしたたかでタフである。前政権とは対照的に。

 国会で、飯島氏が訪朝したとニュースで伝えられたことについて、安倍首相は当初「政府としてノーコメントだ」としていたが、首相が事前に飯島氏の訪朝を知らないわけがないだろう。安倍首相が意図しているのは、もちろん拉致問題の解決への道筋を立てること。そしてそれには現在有名無実化している当時の小泉首相と金正日総書記との間に交わされた、日朝平壌宣言の再確認も含まれるだろうと筆者は考える。

 また、今回の訪朝に関して、米国と韓国は、事前連絡がなかったことについて不満をあらわにしているという報道もあった。筆者の私見であるが、日本政府が、事前に米国と協議をしていかなったとは到底思われない。綿密な協議が米国と日本の間で行われた上での今回の訪朝であり、米国のデービース北朝鮮担当特別代表は、外務省の杉山アジア大洋州局長に「(飯島氏の訪朝に関して)近いうちに日本政府から、よりくわしい説明を聞けると思っている」と述べているが、これはあくまでメディア向けの発言であろう。因みに韓国については、ひょっとすると実際に事前連絡をしていない可能性もあるだろうが、これは今回の本題ではないので割愛する。

 大胆な推論かもしれないが、筆者は今回の飯島氏の訪朝は、日本と米国の共同作戦だと考えている。この作戦の目的は、日本にとっては繰り返しになるが拉致問題解決であり、米国にとっては米朝関係の改善である。冷えた米中関係は米国に何の国益ももたらさないからだ。具体的には米朝の平和会談への糸口を掴むことだ。その為の密使として飯島氏が派遣されたのであろう。もっとも北朝鮮側は訪朝を公表し、飯島氏の動静を報道してしまったので、密使ではなくなってしまったが、それは大局的にみれば何の問題でもない。

 米朝による平和会談ついては、3ヶ月前にも、朝鮮新報(在日本朝鮮人総連合会の機関誌)が、「(米朝の)平和会談の開催だけが戦争防止の確実な方法だ」と書いている。また記事は最近の米朝関係に関し「ある意味、約60年前に起こった(朝鮮)戦争の最後の局面と言える。対決の歴史の重大な分岐点で、朝鮮は米国の決断を求めている」と強調している。これはそのまま、米国の思いでもあるのではないだろうか。(編集担当:久保田雄城)