患者が自分の診察してもらいたい医療機関へ自由に受診できる制度「フリーアクセスの保証」。これは、日本の保険医療制度が世界に誇れる特徴のひとつである。しかし、これが仇となり、本来、重症者でも受け入れ可能な最新設備を整えた病院に、「施設がキレイだから」という理由だけで軽症の患者が集まっている。重症者に手をかけたいのに、軽症の患者の診断に手間を取り、十分な治療ができなかったりするケースも少なくはない。
また、タクシー代わりに救急車を安易に呼ぶ患者や、不必要な搬送要請を何度も行い常連化する患者が目立ってきている。そのため必要な救急搬送が発生しているのに、迅速な対応が困難になるケースも多発している。
深夜の救急医療現場も同様。「昼は仕事をしているので、自分の空いた時間に専門医に診てもらいたい」、「何となくおなかが痛い」「薬が欲しい」、「眠れない」、「さみしい」などという理由で、救命救急の場にはそぐわない患者が多数来院するケースが目立っている。これらの受診形式は「コンビニ受診」と呼ばれ、今や社会問題にもなっている。
人手不足により当直医師の負担も著しく、当直の翌日が休みになる勤務態勢をとっている病院は少ないのが現状。連続36時間以上働き続けることも多く、しかも、それに見合った診療報酬は見込めない。その結果、止む終えず退職する医師も増え、心身ともに燃え尽き過労死をする医師まで出てきている。現実問題として、救急をやればやるほど病院は赤字になり、医師には過剰な負担がのしかかってくるというのが現状だ。
平成16年度以降に「救急指定・救急輪番制などの取り下げ」を行った病院は、全体では109病院(3.95%)。病床規模では中小規模に多く、このままでは病院医療、さらに日本の医療提供体制の根本をも崩壊してしまうことを強く示唆する。
病院が悪化した経営状態から脱却し、医療の質や安全の向上、医師不足の改善、医療提供体制の整備を行うことは急務である。そのためには、モラルの低下した患者一人ひとりの意識改革が必要不可欠だと思われる。救急病院が、本当に救急治療を要する患者と、それを救おうとする病院や医師たちが報われるような医療現場にならなければ、今後も病院の減少をくい止めることは難しいだろう。