労働党政権の支持率が30パーセントを割り込み、豪州では野党自由保守連合の大勝ムードが広がる中、政権交代後の炭素税廃止と消費税率上げに焦点が集まりつつある。
自由党のトニー・アボット氏は、炭素税は労働党の公約破りで、政権奪取の廃止を何度も明言している。消費税(GST)については、一期目は現行の税率10パーセントを維持するとし、二期目以降については国民の意向に従う発言をしている。
オーストラリアの炭素税は2012年7月に導入され、二酸化炭素排出1トン当たり23豪ドル(約2200円)を課税するようになった。年間2万5000トン以上を排出する企業、団体が課税対象で、294の企業と団体がリストアップされ、当初の1000企業からは大幅に後退した。炭素税導入で最も家計に影響したのは電気代とガス代で、約10パーセントの値上がりとなった。水道代も大幅値上げ、食品の値上がりは微減にとどまり、全体として0.7パーセントのインフレを招くと予測された。低所得層の家計に配慮し、炭素税収入の半分は所得税の減免に当てられる。
炭素税の効果は直ちに現れ、発電で生じる二酸化炭素排出量は既に7パーセント低下、再生利用可能なエネルギー源の利用は30パーセント増加したと政府は説明している。今後、省エネルギー機器への買い替えが急速に進むと予測され、環境への好影響が期待される。
良いことずくめに聞こえる炭素税だが、いくらか問題も内包している。年間2万5000トン以上を排出する大企業は課税され、中小企業は課税されない不平等性である。低税率での出発だが、今後課税額が上昇すれば、分社して課税対象から外れる選択肢がありうる。同様に、大都市は課税され、小都市は課税されない不平等性も生じている。地方自治体が炭素税の課税対象というのは奇妙に聞こえるが、ごみ収集やリサイクル収集で出す排気ガスも課税対象なのである。現実的とはいえないが、大都市を「分市」する選択がやはり生じうる。さらには、2万5000トンを境に、排出量の大きな大学は課税、小さな大学は非課税である。
別の問題提起は、コンピューター会社、携帯電話会社等に加え、環境に良い交通手段と位置づけられる鉄道会社も、 ガソリンやディーゼル、電気等の使用に応じて課税の対象となっている点である。もっとも、炭素税収入の半分は二酸化炭素排出上位20社からの徴税で、下位の企業と団体の支払額は巨額ではなく、価格競争力を損なわないよう、各種の補助金も支払われている。とはいえ、2015年7月からは排出権取引による変動税率に切り替わるため、高い値がつき高税率が続けば、安い電気を求めて海外移転する工場がさらに増える可能性がある。
こうした炭素税の問題点を考慮し、アボット党首は炭素税に反対、ガソリンや電気に個別に課税し、事業者はインボイスを保存して払い戻しを受けるほうがよい、と主張している。
豪州の消費税率だが、労働党は現行税率10パーセントの維持を公約、自由党は税率上げに含みを持たせている。2000年7月の消費税導入以来10パー セントの税率は変わっていない。インボイス方式が採用されており、課税事業者は発行するインボイスに記載された税額のみを控除できる方式である。税務署には徴税が容易な反面、中小企業には会計がやや複雑で、現金でやりとりし、インボイスを発行しない「インボイス飛ばし」が横行している。ワーキングホリデーメー カーなど一時従業員にビジネスナンバーを取得させ、短期社員の給料としてではなく、別会社のサービスとして支払い、源泉徴収と年金積み立てを迂回する例も見られる。覆面の税務署員が買い物客を装ってチェックしているが、日本でも散見されるのと同様、売上げをレジに打ち込まず、個人商店等が消費税を徴収しながら「ネコババ益税」にする事例もある。消費税率上げで、こうした脱税、不正行為はさらに広まる可能性があり、懸念される。
価格競争や資源保護と密接に関わり、増税と徴税は、世界中の政府が悩む問題であり、国際的協力の求められる分野である。なお、食料品、授業料など生活基本物品とサービスは、豪州では広く消費税非課税の対象になっている。(編集担当:轟和耶)