世界をリードする、日本のパワーデバイスとは

2012年10月09日 11:00

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2012年9月27日、東京・大手町の大手町ファーストスクエアカンファレンスで開かれたロームのプレスセミナー。

 「パワー半導体の需要は著しく、2020年には世界全体で8000億ドル規模に成長する見通しです」。去る2012年9月27日、東京・大手町の大手町ファーストスクエアカンファレンスで開かれたロームのプレスセミナーで講師としてマイクを握ったIHSアイサプライ・ジャパンの南川昭副社長は語った。南川氏はIHSアイサプライ・ジャパンで特に南川氏はエネルギーやエレクトロニクス分野の調査・分析に携わっているスペシャリスト。その南川氏は「パワー半導体こそが次の時代のエレクトロニクス産業の重要なポイントとなる」という主旨の講演を行ったのだ。

 ちなみにパワー半導体を身近な例で説明すると、省エネエアコンに使用されているインバーターなどに搭載される部品のこと。電力をオン/オフの単純な切り替えで制御するのではなく、臨機応変に電気を制御するためのもので、現時点でインバーターエアコンは、インバーターを採用していないエアコンに比べて30~40%の節電効果が認められている。すでに巨大な消費社会となった中国のように、インバーター付のエアコンを除いては販売できないような局所的な対応を進めている国もある。さらに、通信、電力、社会インフラなどの分野では、パワー半導体を採用した電源回路の需要はますます増え続けることになる。そのため現在では、より性能をあげた炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)など、さらに次の世代をにらんだパワー半導体の開発が急速に進められている。

 「パワー半導体には多くのメリットがある反面、たとえば従来のLSIに比べて、それが使用される製品の性格上、より信頼性が高いことや長寿命が求められます。スマートフォンのフラッシュメモリならせいぜい数年の寿命を想定すれば良いことになりますが、インフラ関連の機器類に使用するパワー半導体の場合は短くても15~20年の信頼性は維持しなければいけません。また安全性や誤動作に対して法規制なども必要になります。単純な回路でも作りかたによって大きく性能が異なるのもパワー半導体の性質ですので、開発側の経験値がものをいうことになります」こう語るのは同じセミナーで講師をつとめた大阪大学大学院の舟木剛教授だ。

 IT分野で使われる従来の半導体は、日本、欧米に加え新興国の企業もぞくぞくと参入し、ある程度の需要は今後も引き続き認められるが、日本ではそれほど「おいしい」ジャンルではなくなってきている。一方、パワー半導体に関しては日本と欧米で20社に満たない企業が存在するだけで、いずれもが総合力のある企業ばかり。技術力や開発力の点からおいそれとは新規参入しにくい分野でもある。

 ロームもそうした世界で数少ない企業のひとつとして業界に先駆けて2010年にSiCパワー半導体を製品化した。2012年に量産を始めたSiCパワーモジュールは、SiC MOSFETとSiCショットキーバリアダイオードがケースの中に入ったモジュール製品で、従来のIGBTパワーモジュールに比べて電力の損失を約85%も削減できるという。送電や電気製品への電気変換時のロスを大幅に減らせるほか、ロームのSiCパワーモジュールは従来のIGBTパワーモジュールに比べておよそ半分まで小型化も達成したため、製品の小型化にもつながり、エアコンのインバーターなどでも既に採用されているという。今後は、さらなる製品の耐圧領域も広がることが予想されている。

 物づくり日本の凋落が叫ばれて久しいが、パワー半導体という分野ではどうやら日本は1歩も2歩も先んじている。次世代に向けたSiCパワー半導体を必要とする産業は果てしなく広く、いずれ産業分野では特に必要不可欠になってくる。なかなかSiCパワーモジュールやSiCデバイスを直接見る機会は訪れないが、実はこの分野にはとても明るい展望が開けている。日本製のパワー半導体が、通信、鉄道、電力などのインフラ産業をはじめ、自動車、建設、医療といったさまざまな産業で世界を席巻する日もくるかもしれない。