湯水のように国費投入。それでも株主、貸し手(金融機関)は完全に守られる。東京電力福島第一原発事故と高濃度放射性物質による汚染水海洋流出問題。いったい責任を負うべきは誰なのか。
当然、東京電力の執行部、管理職、社員、株主、東電の経営方針を是とし資金提供を続ける金融機関でないのか。原発政策を進めてきた政府にも責任は当然あるが、この問題にかかるあらゆる問題に対する責任は第一義的には東電が負うべきではないのか。
「汚染水問題は国家的危機。東電の責任云々より、まず危機を収めることが第一」と閣僚のひとり。菅義偉官房長官も「汚染水の根本的な問題というものをしっかり見極め、早期解決実現に向け、わが国の技術や知見を結集し、政府が前面に出て解決を図る」と強調した。また「東電の対応は継ぎ接(は)ぎ。東電に任せておけない」と東電批判とも東電の対応に対する諦めとも取れるような、重い腰を上げざるをえなくなったというような言葉も漏れた。
放射性物質による汚染水の海洋流出は世界的に深刻な問題。国が前面にでて対応するのは国家として当然で、費用負担もすべきだろう。
しかし、同時にすべきことが「東電の破綻処理」だ。原発事故が国家のみでなく、国際問題になっているにもかかわらず、当事者の東電の株主や貸し手の保護が、今、なお、なぜ必要なのか。責任の所在と責任のとり方を明確にすべきだろう。巨額の税金を投入する以上、そのことは明確にすべきことだ。
社民党は「事故処理に係わる費用は除染や賠償の費用同様に資産の売却、経営陣の報酬削減、リストラの徹底など東電自身の努力によって賄うべき」と断言する。「東電が負担できないのであれば法的な破綻処理を行い、株主や債権者等のステークホルダーの負担を求めるのが次の手段。それで足りない場合に、初めて、電力需要者(電気代の値上げ)、税金の投入を検討する可能性がある」と。至って常識的結論だ。
仮に破綻処理をしないなら、東電はさらに大ナタを振った大改革をすべき。第3者機関が改革プランを作り上げることが望ましい。「汚染水問題は東電に任せられない」(菅官房長官)というが、東電改革も東電に任せられないことを自民党の河野太郎副幹事長も指摘する。東電の体質に問題がある。
河野副幹事長がその例をあげた。自民党環境部会で原子力規制委員会事務局とエネ庁から福島第一原発の汚染水問題への対応についてのヒアリングでのこと。河野副幹事長は「この期に及んでも福島第一原発の5号機、6号機を廃炉にするかどうかは東電の経営判断とエネ庁が言い続ける。この屁理屈でこの2つの原子炉の維持管理費が東電管内の電力料金に上乗せされている」と怒りが隠せない。そして、汚染水事故説明での東電と政府のやり取りを紹介した。
東電「堰のドレンバルブを閉運用とした場合、管理に4-5倍の人員が必要になるので、直ちにそれを実施することはむずかしい」
原子力規制委員会「堰のドレンバルブは閉運用とする」
東電「堰内の雨水管理方法等の工夫を加え、堰の排水弁を現状の開運用から閉運用に変更します。人数が足りないので、タンクの点検が十分にできず、異常を把握する記録がとれない」
原子力規制委員会「パトロール頻度を1日2回から当面の間1日4回に増やし、線量確認及びその記録について数値を含めた詳細な記述に変更せよ」
東電「早急にパトロール要員約50名増強。エリア毎に担当者を固定する『持ち場制』を導入し、漏えい、漏痕、疑わしい水たまりの有無を点検、記録をつけます。常時簡易線量計を携帯し、有意な放射線量の有無を確認・記録し、変動があれば電離箱線量計により詳細に測定・記録します」
このやりとりに河野副幹事長は「東電は、やれと言われればできることを、自らはやらない理屈を並べ挙げて、やってきていない。なるべく人手とコストをかけずに対応しようとしている」と指摘する。
こうした体質で人件費の更なる切り込みまで出来るわけがない。電力業界は他の業界より人件費が高いことは政府統計でも明らかで、事実上の破綻企業が一般大手企業の平均値より高い人件費であることを容認すること事態、異常といわなければならない。また、税金投入で生き続ける企業としての国民への責任感や放射性物質を海に流出させ続ける状況への国際社会への責任を、企業としてどう受け止めているのか、疑問といわざるをえない。
エネルギー政策の研究家・大島堅一立命館大学教授は「事故炉の廃炉費用まで電気料金で回収するのであれば、今後、保険も何もいらない。損害賠償も支援機構から国民負担でお金がでるから、原発事故ですら、電力会社にとってノーリスクということだ。こんなことが通るのは原発業界だけだろう」と理不尽な仕組みを指摘した。当然、世間の常識に修正すべきだろう。
株主・貸し手が完全に守られるなか、事故炉の廃炉費用まで付け加えられそうになっている電気料金の見直しにも問題がある。当然、その前に東電関連の株主や銀行などに負担を求めるべき。国際問題だから税負担で早期解決という論理は許されるべきでない。全額を立替たとしても、立替は立替であり、筋を通すべきところだ。
5日、懸念されていた問題が、新たに具体性を帯びた。高濃度汚染水貯留タンクから漏えいした汚染水が土壌に浸透し、地下水に到達した可能性があると東電が5日明らかにした。地下水が原子炉建屋内に流れ込むのを防ぐため、井戸から地下水を汲み上げ海に放流するプランも、この事実から見直す必要が出ている。解決の糸口が見つからない。国費投入にも出口が見えない。東電は東電としてのけじめを付けなければ許されないところにまできていることを自覚すべきだろう。(編集担当:森高龍二)