リブセンスは成功したが、「成功報酬型」は必ず成功するわけではない

2012年09月24日 11:00

 広告主からの成功報酬の一部を「祝い金」に回すセンスの良さ

 10月1日、求人情報サービスのリブセンスが、東証マザーズから東証第1部へ市場変更になる。社長の村上太一氏は現在25歳。昨年12月7日に25歳1ヵ月で東証マザーズに新規上場を果たし、インターネット広告代理業のアドウェイズの岡村陽久社長が持つ 26歳2ヵ月の最年少記録を更新した。東証第1部に上場すると100円ショップのキャンドゥの城戸一弥社長(27歳)を抜いて現職で最年少の社長になる。

 リブセンスのサービスには正社員、パート・アルバイト、派遣社員それぞれの求人サイトを中心に、賃貸住宅の物件情報サイト、中古車情報サイト、転職口コミサイトなどが揃っている。PCサイトもガラケーサイトもスマホサイトもある。そのほとんどはリクルートなどが、インターネットの商業利用が始まるずっと以前から情報誌を発行しては広告を集めてきた分野で、ジャンルだけ見れば「真っ赤っ赤なレッドオーシャンじゃないか。この不景気にどうして成功できたんだ」と思うかもしれない。

 確かにこの分野の競合は多く、不況時には広告料のたたき合いは必至。実績やブランド力や政治力などのアドバンテージを持たないベンチャーが正面からぶつかっても、成長できるだけの利益は得にくいだろう。それに対してリブセンスが取った戦術は、掲載時の広告料はゼロ。結果が出たらお金をいただきますという「成功報酬型ビジネスモデル」だった。求人サイトなら採用に至った人数、賃貸物件情報サイトなら問い合わせ件数、中古車情報サイトなら成約件数で結果をカウントし、広告主は報酬を支払う。もし結果が出なければ原則、一銭も支払わなくていい。広告の効果に疑いを持っている広告主も、「とりあえず出してみるか。載せるだけならタダだし」と思うかもしれない。もし、同じ成功報酬型の競合相手がいなければ、レッドオーシャンの赤は青に一変し、他社とコンペでぶつかることなく市場は”切り取り次第”になる。しかも、古くから市場が形成された分野であれば、出現したばかりでスケールが小さく、先が見通せないブルーオーシャンなどよりも規模、安定性の点で優れている。ベンチャーが育つための”畑”としては申し分ない。

 もちろん、成功報酬型の競合相手がいれば事情は変わってくる。リブセンスも主力の求人サイトではエン・ジャパンなどが成功報酬型のコンペティターになっている。その競争を勝ち抜くためにリブセンスが用意したのは「祝い金」のシステムだった。求人サイト経由で応募して採用が決まった人には、正社員なら最大10万円の祝い金を支給する。これは仕事を探していた人への「成功報酬」とも言える。その原資はもちろんリブセンスが広告主から得た成功報酬の一部なのだが、お金をもらった人はリブセンスからプレゼントされたと思うから、うれしくなってブログやフェイスブックやツイッターに書いたり、口コミを広めてくれる可能性がある。そうやってサイトの評判もアクセス数も上がっていけば、広告主への営業上、ますます有利になる。営業職や事務職のような一般的な職種だと、求人広告を見た「母集団」が大きければ大きいほど、良い人材が獲得できる可能性は高まるからだ。お金をくれた相手を呪ったり、けなしたりする人は、まずいない。文字通り”現金な”人間の本性をうまく利用するこのやり方は、なかなかセンスがある。ネット社会のリスク管理として最近よく聞かれるようになった「レピュテーション・マネジメント(評判の管理)」のお手本にもなりそうだ。

 「成功報酬型」で失敗して減資の憂き目を見た会社もあった

 成功報酬型のビジネスモデルは、別に目新しいものではない。たとえば漁業は、もし大漁だったら漁獲高に応じた収入が得られる。北海道には昔のニシンの大漁の時に建った豪壮な御殿が今も残っている。ビジネス界でも訪問販売の業界などでは「フルコミッション(完全歩合制)」の営業職が以前から存在していて、成功報酬型はそれを会社全体でやっているようなものである。結果を出せばそれに応じた収入が得られるが、結果が全く出なければ収入ゼロ。リスキーはリスキーだが、それだけに急成長を狙うベンチャー、特に初期投資が少なくてすむネットビジネスや、アウトソーシングした結果が目に見えるような代行ビジネスには向いていると言えそうだ。

 成功報酬の身近な例と言えば、ファンコミュニケーションズ、バリューコマースなどがネット社会に広めた「アフィリエイト広告」が挙げられる。個人や企業のサイトやブログなどに広告を掲載して、広告を見た人が商品を購入するたびにサイトやブログの持ち主に報酬が支払われるしくみだ。もっとも、彼らはそれで生活したり会社を維持しているわけではなく、「お金がもらえれば臨時収入が入ってラッキー」という程度の意識で、広告業者はその仲介で利益を得ているから、「成功報酬サポート型ビジネスモデル」と言ったほうが正確かもしれない。

 そうではなく、主力事業で顧客に対して提案する料金システムに成功報酬を取り入れた企業の代表例としては、SEO(サーチエンジン最適化)対策の代行で成果をあげたフルスピード、ビルのテナント誘致の代行で成果をあげたエリアクエストがある。業種は全く違うがどちらも代行ビジネスで、サーチエンジンの検索上位に入ったかどうか、ビルのテナントがどれだけ入ったかという結果が目に見え、カウントしやすい。もっとも、結果が最もカウントしやすく、完全成功報酬型をうたえば企業の食いつきが最も良くてビジネスとして成り立ちそうに見えるのは、「営業代行」ではないだろうか。人材難で固定費がかかる営業部門をアウトソーシングして、何%かのコミッションと引き換えに販売売上が〃買えて〃、販売費を完全変動費化できるなら、経営上こんなにいいことはない。営業部門全部とは言わず、不況下で困難をきわめる新規顧客開拓や新製品の売り込みだけでも頼めるなら頼みたいという企業は、たくさんあるだろう。

 過去、その成功報酬型営業代行に果敢にチャレンジした会社はあった。フリード(現社名:フォーバル・リアルストレート)は、その一つである。1995年に通信機器、事務機器の販売会社として名古屋で設立された同社は、2002年8月、成功報酬型アウトソーシングによるビジネスサポート(営業代行・業務請負)業務に参入し、その3年後にジャスダック上場を果たしている。東西のNTT、NTTコミュニケーションズ、日本テレコム(現・ソフトバンクテレコム)、フュージョンコミュニケーションズなどの通信会社の回線や通信サービスをセールスし、取次手数料を得ていたモデルとマンパワーを応用して、主に中小企業の営業代行で実績をあげていた。

 しかし2008年、リーマンショックの悪夢が襲う。日本経済全体が大きく縮小し、大手企業でも売上高が大きく減少して、事業や商品の「選択と集中」で生き残りを図る中で、中小企業の営業活動を請け負う立場は弱い。ましてや成功報酬型では売れなくて収入が入らない。事業はたちまち行き詰まり、2009年6月に稲垣靖彦社長は退任し、7月には社名をフォーバル・リアルストレートに改めた。主な事業内容をオフィス移転のサポート業務に変え、8月には資本金を7億円余りから1億円に減資までして、親会社のフォーバル主導で懸命に生き残りを図っている。その後、この会社の業績は業態転換が効いて持ち直しているが、成功報酬型の営業代行からは完全に撤退している。リーマンショックの影響をもろに受けたという不運な面もあるが、「成功報酬型のビジネスモデル」だからと言って必ずしも成功するとは限らないことを、この事例は教えてくれる。

 成功報酬型信託報酬の投資信託が投資家に嫌われ繰上償還に

 投資信託という金融商品は、それを保有し続ける限り毎日毎日、「信託報酬」という手数料が差し引かれて、運用会社、資金を受託・管理する信託銀行、販売した証券会社などの収入に回っている。信託報酬の率は投資信託の基準価額が上がっても下がっても、すなわち投資家が儲かっても損をしても一定なのがふつうで、とかく批判の的になってきた。

 その批判をかわして「投資家フレンドリー」をアピールすべく設計されたのが「成功報酬型(実績報酬型)」の信託報酬を採用した投資信託である。日本でその代表選手として2000年9月に新規設定されたのが、三井住友アセットマネジメントが運用する「ノーロードファンド維新」だった。

 これは日本株に投資してベンチマーク(この商品の場合はTOPIX)を上回る運用実績を目指すアクティブ型ファンドだが、購入手数料はゼロで、信託報酬(監査報酬込み)は同種の他の商品が年1.4~2.0%程度なのに対し、0.105%とかなり低く抑えていた。その代わり、3カ月間に基準価額が上がり、ベンチマークのTOPIXを上回る成績を収めると、投資家は上回った差額の21%の成功報酬を支払うという条件がついていた。この商品は期間が無期限だったが、2011年2月に繰上償還になり、今はもうない。

 消えた理由は、金融業界的に言えば運用成績の不振ではない。実態は正反対で、リーマンショックの後も、ベンチマークのTOPIXをずっと上回り続けて、同種の他の商品をもしのぐパフォーマンスを見せていた。しかし、金融業界的にではなく世間一般的に言えば、運用成績は大不振である。基準価額はリーマンショックでTOPIXもろとも大幅下落し、基準価額は1口1万円前後から4000円ぐらいまで下落した。その後、6000円ぐらいまで戻す局面もあったが、最後まで1万円には戻らなかった。つまり、金融業界的には「成功」、3カ月間で区切れば「成功」でも、07年頃までに1口1万円前後でこの商品に投資した投資家にとっては「取り返せない大失敗」なのである。それなのに、運用会社は3ヵ月の間に基準価額が上がれば「成功」だとして成功報酬を取り、TOPIXとの差額が開いた09~10年頃には信託報酬が増えた時期がある。「大失敗したのに、どうして成功報酬を増やすのか?」投資家の怒りは爆発し、解約が相次ぐ。成功報酬がプラスされて信託報酬が高騰したので新たに買う人もおらず、資産残高は減る一方。繰上償還の条件の受益権口数5億口を割り込むようになり、運用会社は不名誉な繰上償還を決断せざるを得なくなった。「ノーロードファンド維新」は、投資信託の世界に新風を吹き込んで維新を起こすどころか、投資家を喜ばせようと取り入れた成功報酬がかえって仇になり、怒った投資家に征伐されてしまった。

 その後、日本では成功報酬型信託報酬の投資信託は出てこない。もしこれが、フルコミッションの成功報酬であっても、結果は同じだっただろう。金融業界語の「成功」と一般の日本語の「成功」で、意味が違っていたからである。「成功報酬型ビジネスモデル」は、いつも成功するとは限らない。「成功」の解釈をめぐってボタンの掛け違えがあったりすると、かえって逆効果にもなるようだ。