ワイヤレス給電の普及に向けた大きな一歩

2013年10月05日 20:06

パッケージ2

低発熱、電流量の増加、充電時間の短縮を実現した、ロームのワイヤレス受信制御IC

 総務省が発表した「平成25年版 情報通信白書」によると、2011年度実績で、スマートフォンの出荷台数がフィーチャーフォン、いわゆるガラケーの出荷台数と逆転して以来、フィーチャーフォンの出荷台数が急速に減少しており、13年度の予測では出荷総数4,122万台の内、3,630万台をスマートフォンが占め、残り485万台がフィーチャーフォンとなっている。

 スマートフォン人気もさることながら、一つの事情としては、NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンク、各キャリア共に今夏のモデルとしてフィーチャーフォンをリリースしていないことなども挙げられる。つまり、ユーザーがフィーチャーフォンを求めても、買いにくい状況であるのも実情なのだ。スマートフォンは言うに及ばず便利な代物ではあるが、それでも未だにフィーチャーフォンを支持する声も多い。その大きな理由が、バッテリーの持ちの悪さにある。普及初期に比べてかなり改善されてはきたものの、インターネットやゲームを楽しみつつ、いざメールや通話の際に「電池切れ」とならないためには、充電器や携帯型のバッテリーは欠かせない。そのような中、スマホのヘビーユーザーから大きな注目を集めているのが、ワイヤレス給電式の充電器だ。

 スマートフォンだけに限らず、ワイヤレス給電は世界的にも将来性が期待されている市場分野であり、わが国でも将来50兆円の新市場の開拓を目指して総務省が策定した「電波新産業創出プロジェクト」の中で、ワイヤレス給電家電の世帯普及率を80%にする目標も示されている。また、米国などではカフェやファーストフード店などがワイヤレス給電サービスを本格的に導入する動きもみられるという。

 ワイヤレス給電の利点は、なんと言っても「置くだけ」という手軽さ。そして規格に準拠する送受信機が搭載されていれば、スマートフォンやタブレットだけでなく、電動歯ブラシや電気シェイバー、マイクスタンドなど同様に充電できるようになるということだ。もちろん、携帯キャリアの違いも関係ない。

 しかしながら、まだ開発途上であるため、いくつかの課題もある。例えば、端末が給電装置の中心に設置されていない場合の充電ロス、そして有線と比較するとどうしても充電速度が遅くなること、さらに送受信間に他の金属が入ることで起こりうる発熱に対する安全性の問題などがある。ワイヤレス給電の普及を加速させる為には、これらの課題をクリアすることが急務となっていた。

 そのような状況の中、日本企業のローム株式会社が開発したワイヤレス受信制御ICが業界で話題となっている。今回、ロームが開発したのは業界初の位置ずれ検知機能を備えたワイヤレス受信制御ICは、WPC(Wireless Power Consortium)の最新Qi(チー)規格に対応したもので、1chipで開発されているにも関わらず低発熱を実現し、給電時の温度上昇を従来品に比べ約75%に低減されている。これにより、流せる電流も多くできるので、従来品よりも充電速度も早くなるといわれている。

 さらにロームでは、スマートフォンなどの小型端末用Low Power(~5W)製品にとどまらず、ワイヤレス給電に必要なコア技術をグループで全て保有しているアドバンテージを活かし、タブレットなどで利用可能なMedium Power(5W~)を構築する製品についても開発を進めており、規格策定と同時に、早ければ来春から業界トップを切って量産する予定だという。

 技術の進歩は日進月歩だ。今後も端末が進化するにつれて、多種多様な技術が確立されてくるだろう。とくにモバイル機器の市場には世界中で注目が集まっている分野。今回のローム製品はワイヤレス給電の普及に向けた大きな一歩といえるものではないだろうか。電気機器、電子機器市場で中国や韓国の台頭に危機感を抱く声も聞かれるが、日本の技術力はまだまだ負けてはおらず、最先端を走っている。将来的に予測以上の巨大市場に成長することを期待したいものだ。(編集担当:藤原伊織)