予防医療の鍵を握る遺伝子検査の実態とは

2014年04月13日 08:28

 ガンや心臓病、脳梗塞など生命に対して重大な危険を及ぼす様々な病気に対し、自分は罹患しやすいのか否か、それを予め知っておきたいと思うのは誰しも当然のことだろう。

 2012年、ハリウッド女優であるアンジェリーナ・ジョリーが乳房を切除したというニュースは世界中の女性を驚かせた。彼女が切除したのは健康な乳房である。つまり彼女はあくまでも「乳がん予防のために」手術を受けたのであり、その決断をさせたのが遺伝子検査とその結果だったのだ。

 現在、遺伝子検査を実施しその結果をウェブ上で閲覧することのできるサービスを提供する事業者が急速に増えている。検査方法も簡単で血液は必要なく、口内の唾液や粘膜を専用の器具(綿棒のような物)で少量擦り取るだけである。また、検査できる病気の種類の増加や低価格化も加速度的に進んでいる。ガンや心臓病、糖尿病といった生命に直結するリスクだけでなく太りやすいかどうかや、肌が老化しやすいかどうかといった美容・健康面でも遺伝子検査が活用されているのだ。どんどん個人レベルに手が届くサービスへと進化していると言えよう。

 しかし、一方で未解決な問題点も多く存在する。昨年11月、アメリカ食品医薬品局(FDA)は遺伝子検査事業を行う「23andMe」に対し検査キットの販売停止命令を下した。「23andMe」はグーグルの出資を受け創業された企業であり、テレビCMを積極的に活用しアメリカで急速に普及している真っ最中であった。ところがFDAは同社の販売する検査キットの安全性や信頼性に問題があり、利用者に過度の不安を抱かせたり、逆に早期治療の機会を失わせてしまう可能性があると判断したのだ。また、米国臨床遺伝学会も現時点では個人レベルでの遺伝子検査を推奨してはいない。簡易な遺伝子検査だけで全てのリスクを確実に計ることができるわけではないのだ。この他にも個人情報としてのDNA情報が他人の手に渡ってしまうのは危険なのではないか、といった声もある。たしかにこのような情報は例えば保険会社等からすれば喉から手が出るほど欲しい情報だろう。保険加入の判定に密かに利用されるといったことも考えられなくはない。

 このように、遺伝子検査は未だ問題点も多く万能ではない。発展途上の分野と言えるだろう。しかし10年以内には250億ドル以上もの市場規模へと成長が目されており、今後検査の信頼性や安全性等、様々な面で問題点の解決が成されていくのは間違いない。そうなれば自分にあったサプリメントや予防薬を効率よく摂取し、ほとんどの病気を高確率で予防できる社会が訪れるのかもしれない。人間が神の目を持つ日もそう遠くないのではないか。(編集担当:久保田雄城)