2011年3月11日に発生した東日本大震災による津波は東北地方を中心に甚大な被害をもたらした。この厳しい経験はその後の日本人に強烈なインパクトを与えた。そして、将来の巨大地震・津波による被害を最小限にとどめる対策や、大規模シミュレーション技術を被災メカニズムの解明や高精度な被害予測に活用することが、強く求められている。
富士通<6702>は14日、国立大学法人 東北大学との共同研究で、津波が市街地や河川を遡上する様子を精緻に再現できる、三次元津波シミュレーターを開発したと発表した。
この共同研究は、東北大学 災害科学国際研究所所長 今村文彦教授の開発による、波源から沿岸部までの広域の津波の到達時刻や波高の計算に広く活用されている二次元シミュレーション技術と、同社の三次元流体シミュレーション技術を融合したもの。沿岸の地形や市街地の建造物によって津波が複雑に変化しながら市街地や河川を遡上する様子を、より正確に再現することが可能である。
富士通は、巨大地震に伴う津波による複合災害予測への応用に向け、文部科学省が推進しているHPCI戦略プログラムの課題テーマの一つ「津波の予測精度の高度化に関する研究」の中でこのシミュレーターを活用する。津波被害予測を高精度化することで、災害に強い街づくりに貢献することを目指す。
新技術は、比較的計算量の少ない二次元シミュレーション技術で波源から沿岸部に至る広域での津波を再現し、沿岸部や市街地などの砕波や越流などの現象が生じる領域内でのみ三次元流体シミュレーション技術を使う。これにより、三次元での津波の動きを、実用化可能な時間内で、再現することが可能となった。
地震に伴って発生した津波の複雑な流れや沿岸部での砕波や越流などの挙動を再現できる。これにより、防波堤を越えて激しく打ち上がり、落下する津波の衝撃力による被害などを、より正確に見積もれるようになると期待される。また、計算量の少ない津波伝播の二次元シミュレーション技術を利用して広域の波高・流速などを再現するため、計算量の多い三次元流体シミュレーション技術のみのシミュレーションよりも、再現に要する時間を短縮できる。
例えば、波源から市街地までの津波のシミュレーションを三次元流体シミュレーション技術だけで行うと、1万ノードのスーパーコンピュータシステム(ノード数でスーパーコンピュータ「京」の約8分の1に相当)を用いても、200年以上もの時間がかかるため、実用化は不可能だった。
しかし、今回開発した三次元津波シミュレーターであれば、1万ノードのスーパーコンピュータシステムによる160時間程度の計算で、港や湾1つ分に相当する約10km四方の領域内の津波の動きを、0.5m径程度の解像度で精緻に再現できる。このため、沿岸の防波構造物による津波対策の効果予測などにより減災対策を支援するソリューションとしての実用化が可能と考えられるとしている。(編集担当:慶尾六郎)