被災地の心臓病患者 時間がたつにつれて精神的ストレスは増加

2014年03月02日 19:51

 東日本大震災で被災した心臓病患者の多くが長期間にわたり精神的ストレスを抱え、その頻度は時間がたつにつれて軽減するのではなくむしろ増加していることなどがわかった。東北大学大学院医学系研究科循環器内科学分野の下川宏明教授らの研究で明らかになった。

 研究では、東日本大震災が心臓病患者に与えた精神面における影響を明らかにするため、東北大学病院循環器内科に通院する慢性心不全及びその高リスク患者1725名を対象としてアンケート調査を実施した。

 精神的ストレスは、①侵入(本人の意思とは無関係にその時の光景や恐怖の感情がよみがえる状態)、②回避(外界に対する活動性や反応が低下し感情のマヒが生じる状態)、③過覚醒(あらゆる物音や刺激に対して過敏に反応してしまい不安で落ち着かない、眠れない状態)という3つのストレスの側面から総合的に評価し、25点以上を「心的外傷後ストレス反応/障害(PTSR/PTSD)」と定義した。

 まず、2011年に有効回答を得た1180名の患者のうち、14.1%がPTSR/PTSDと判定された。大災害後の精神的ストレスに関する過去の海外の調査研究ではPTSR/PTSD陽性頻度は12.5%と報告されているため、東日本大震災においても過去の大災害と同等かそれ以上に震災後に精神的ストレスを抱える人が存在することが明らかとなった。

 また、これら精神的ストレスは、地震に加えて津波の被害を受けた人で最も多く、男性に比較して女性で多く認められた。心臓病患者は、一般住民と比較すると、ストレスに敏感になっていることも推察される。翌年12年の調査結果では、PTSR/PTSDの頻度が18.9%とさらに増加しており、その傾向は侵入・回避・過覚の3つのストレスの全ての側面において認められた。

 また、PTSR/PTSD関連因子として、患者自身の受傷や近親者の受傷・入院・死亡、自宅の損壊などは両年とも共通してPTSR/PTSDに関与していたが、その他の要因では、11年のPTSR/PTSDには心不全の重症度(病気そのものの要因)、12年では失業・転職、経済的困窮(社会的要因)が関与していることが明らかになった。

 震災後の精神的ストレスを評価した報告は過去にいくつかあるが、比較的長期にわたり調査を行った報告はなく、同研究は、①震災後の精神的ストレスが長期にわたり持続してその頻度はむしろ経時的に増加すること②その要因が経時的に変化すること(病気そのものの要因から社会的要因へ)――を初めて明らかにした点で、重要なメッセージを含んでいるという。下川氏らは現在、心不全重症度や生命予後との関連を含めた解析を行っており、追加の解析が完了し次第、最終結果が公表される予定だ。

 調査結果から見えた事実として、精神的ストレスが時間を追うごとにむしろ増加していることが興味深い。こうした事実から鑑みても、被災地支援がまだまだ道半ばであることを痛感させられる。(編集担当:横井楓)