東日本大震災から3年目を迎えようとしている。被災地の東北地方では、被災者の健康面を考えれば、慢性期の疾患動態に注意を払う必要がある。東北大学大学院医学系研究科循環器内科学分野の下川宏明教授らの研究グループは24日、東日本大震災後に精神的ストレスが増大し、年々増加していると発表した。
下川教授らの研究グループは、発災後の急性期には、心不全などの循環器疾患や肺炎の増加を明らかにしたが、今回の研究の結果からさらに震災後の長期にわたる精神的ケアの必要性が示されたという。この研究では、東日本大震災が心臓病患者に与えた精神面における影響を明らかにするため、東北大学病院循環器内科に通院する慢性心不全及びその高リスク患者1725名(62.8歳 男性66%)を対象として郵送によるアンケート調査を行った。
精神的ストレスは、世界標準として使用されているIES-R(Impact of Event Scale-Revised)スコアを用いて評価した。具体的には、①侵入(本人の意思とは無関係にその時の光景や恐怖の感情がよみがえる状態)、②回避(外界に対する活動性や反応が低下し感情のマヒが生じる状態)、③過覚醒(あらゆる物音や刺激に対して過敏に反応してしまい不安で落ち着かない、眠れない状態)という三つのストレスの側面から総合的に評価し、25点以上を「心的外傷後ストレス反応/障害(Posttraumatic stress reaction/disorder:PTSR/PTSD)」と定義した。
研究の結果、まず、2011年に有効回答を得た1180名の患者のうち、14.1%がPTSR/PTSDと判定された。大災害後の精神的ストレスに関する過去の海外の24の調査研究ではPTSR/PTSD陽性頻度は12.5%と報告されているので、東日本大震災においても過去の大災害と同等かそれ以上に震災後に精神的ストレスを抱える人が存在することが明らかとなった。また、これら精神的ストレスは、地震に加えて津波の被害を受けた方で最も多く、また男性に比較して女性で多く認められた(男性12.6%、女性17.2%)。
心臓病の患者は、一般住民と比較すると、ストレスに敏感になっていることも推察された。翌12年の調査結果では、PTSR/PTSDの頻度が18.9%とさらに増加しており、その傾向は侵入・回避・過覚の三つのストレスの全ての側面で認められた。また、PTSR/PTSD関連因子として、患者さん自身の受傷や近親者の受傷・入院・死亡、自宅の損壊などは両年とも共通してPTSR/PTSDに関与していたが、その他の要因では、11年のPTSR/PTSDには心不全の重症度(病気そのものの要因)、12年では失業・転職、経済的困窮(社会的要因)が関与していることが明らかになったとしている。
震災後の精神的ストレスを評価した報告はこれまでもいくつかあるが、比較的長期にわたり調査を行った報告はなかった。「心の傷は時間が薬」、とよくいうが少なくとも今回の事例については、それは当てはまらない。被災者への心身、経済といったすべての面からの早急なケアを望む。(編集担当:慶尾六郎)