今月、岡山理科大学がクロマグロ1匹を岡山市中央卸売市場に出荷した。同大はこれまでもトラフグ、ヒラメ、シマアジ、ニホンウナギと次々と養殖魚を出荷してきたが、遂に内陸10キロ以上の同大キャンパスで育った「海を知らない」マグロが出荷されたことは、これからの日本の水産業を考える上で大きな転機となる可能性がある。
今回出荷されたマグロをはじめこれまで養殖されてきた海水魚は同大の山本俊政准教授(水産増殖学)が開発した「好適環境水」を用いて養殖されたものだ。淡水にナトリウムなどを加えたこの水を使えば、内陸部でも海水魚の養殖が可能になるという。
このような技術が一般的になれば、これまで安定供給が課題となってきた水産物の養殖がより容易になる。水産物の自給率が下がり続けている日本の台所にとっては朗報に思えるが、問題はそれほど簡単ではない。水産業が超えなければならないハードル、それは養殖魚を避ける消費者の考え方である。
四方を海に囲まれ新鮮な水産物に恵まれてきた日本人には、養殖魚に対する不信感がいまだに強い。2006年に行われたアンケートでは実に全体の79.6%が養殖魚についてどのように養殖されているかに関心をもっており、その中でも「えさ(77.1%)」と「くすり(70.9%)」が関心を集めているという結果が出ている(2006年 大阪府消費生活リーダー会調べ 後者は複数回答)。
しかし「好適環境水」の例からもわかるように、日本の養殖技術は飛躍的に向上している。生産業者には「何を食べているかわからない」天然魚よりも、管理された養殖魚の方が安全という主張もある。これからの水産業の課題はいかにして養殖魚への信頼を強めていくかだ。
日本が世界に誇るコシヒカリや松阪牛も「養殖もの」である。ブランド化されたこれらの農産物と同様、養殖魚も「ブランド魚」となる可能性は十分にある。そのための取り組みは既に始まっている。例えば、愛媛では「認定漁業士」を育成し、天然ものを超える養殖魚の生産に取り組んでいる。安全で美味しいブランド魚は消費者にとっても歓迎すべきことだ。私たちも養殖魚に対する見方を再考すべきときかもしれない。(編集担当:久保田雄城)