今月3日、静岡県富士宮市や富士市の野生きのこが出荷制限された。東京電力福島第一原発事故の放射性物質による影響が直接的に中部圏まで広がりつつあることを示唆している。そして、今も新たな出荷制限は出続けている。出荷制限の基準は食品基準値超えではあるが、放射性物質による自然界への汚染が広がっていることを示すものともいえる。
政府は東京電力福島第一原発事故での高濃度汚染水の貯留タンクからの漏えいや原子炉建屋に流れ込む地下水対策などを喫緊の問題とし「国が前面に出て対応する」としているが、人体への影響に限らず、野生の小動物や昆虫、川魚など生態系や植物への影響についても、大学や民間研究機関を通した調査を国策として多角的に推進することが喫緊の課題といえる。
次世代に負の遺産を渡さないためにも、今回の事故が短期、中期、長期に渡って地球環境、特に生態系にどのような結果を生じさせることになるのか。悪い結果が予測される場合、どうすれば阻止できるのか。事故を起こした当事国として世界に協力を呼びかけ、取り組むことが必要だ。
生態系への影響については琉球大学の大瀧丈二准教授が研究に取り組んでいる。「この事故が動物に与えた生物学的影響、生理的、遺伝的な障害を与えたことを明らかにしたい」として、原発事故発生の一昨年5月から一般的に生息している「ヤマトシジミ」への影響を継続研究。福島県福島、郡山、いわき、本宮、広野をはじめ、茨城県の水戸、つくば、高萩、宮城県の白石、東京都千代田区でヤマトシジミを採取し、同時に地表と地表から30センチ、1メートルの高さでの空間放射線量を測定し、分析を開始した。
これまでの調査の結果によると「第一化の成虫を2011年5月に福島地域で採集、その一部には比較的軽度の異常が認められた」という。
そして「第一化の雌から得られた子世代に認められた異常は重度が高く、それは孫世代に遺伝した」とし「遺伝的損傷がチョウの生殖細胞に導入されたことを示唆する」と深刻な状況にあることを提起している。
大瀧准教授は「2011年9月に採集された成虫の異常は5月に採集されたものと比較して重度が高かった」とも報告。「福島周辺地域からの採取の異常率は28%と、5月に比べ2倍以上になった」ことや「その子世代では異常率が60%に達した」と形態異常や翅のサイズの縮小、生存率の低下などを指摘した。
大瀧准教授は「非汚染地域の個体に対する低線量の外部被ばく、および内部被ばくにより、同様の異常が実験で再現された。この結果から福島の原子力発電所に由来する人為的な放射性核種がヤマトシジミに生理的および遺伝的な損傷を引き起こしたと結論する」とした。放射能に汚染された餌を食し羽化途中に死亡したものも採取されていた。
大瀧准教授は「ある種のチョウにおける放射能汚染のための低線量被ばくによって引き起こされた、継承されうる生殖細胞の遺伝的損傷についてのわれわれの実験は、動物への放射線の将来起こりうる影響に関して計り知れない貴重な示唆を含んでいる。原発から放出されたプルトニウム検出を考慮して、摂取食物からの内部被ばくにより起こり得るリスクは、近い将来、より精密に調査されるべきである」と警鐘を鳴らす。こうした生態系への影響を懸念しながら研究に取り組む研究者らの研究を国の研究として支援していくことを環境省や厚生労働省、文部科学省は連携して検討すべきだろう。
■参考■
政府の原子力災害対策本部は食品中の放射性物質の量に基準値を決め、基準値を超えた食品には摂取制限や出荷制限を行っている。その基準値について厚生労働省は「年間線量(1年間に食べた食品中の放射性物質から体が生涯にわたって受ける放射線量の合計)の上限を、放射性ストロンチウムなどを含めて1ミリシーベルトにしている」。
1ミリシーベルトの根拠については「食品の国際規格を作成しているコーデックス委員会のガイドラインが年間1ミリシーベルトを基準としていること」「モニタリング検査の結果で多くの食品からの検出濃度が時間の経過とともに相当程度低下傾向にあること」と説明している。
また、厚生労働省は「粉ミルクや1歳未満向けのベビーフードなどの乳児用食品と、子どもの摂取量が特に多い牛乳は流通する食品のすべてが汚染されていたとしても影響がないよう、一般食品の半分の50ベクレル/kgとした」と説明している。(編集担当:森高龍二)