しかし前週は、22日までNY時間のドル円レートが一度も102円台に乗せられなかったにもかかわらず、日経平均は22日には終値ベースで14300円を超え、23日後場には5月に入って初めて14500円台に乗せる時間帯があった。これは何を意味するのか? 第一に考えられるのは、「日経平均は為替次第」という状況をもたらしていた「東京市場の需給バランス」に、ポジティブな変化が現れたことである。
需給バランスを推測できる指標といえば「信用買い残」「裁定買い残」がまず思い浮かぶ。21日に東証が発表した16日時点のデータでは、信用買い残は5月2日に比べて0.8%増で信用倍率は5.49から5.78に増えていた。昨年12月の株価上昇時の制度信用取引の決済期日が6月に到来するので高水準の継続は致し方ないところ。これが6月にかけて需給面のリスクとして存続する。
裁定買い残のほうは5月2日に比べて16日は9.0%減少し2月28日以来の低水準になった。前週も減少ないし横ばいだったとすると、指数先物(日経平均先物、TOPIX先物)の裁定解消売りによる需給の改善は月初からけっこう進んだことになる。東証が22日に発表した投資家別株式売買状況では、5月第3週(12~16日)に外国人投資家は3週間ぶりに906億円の買い越しに転じ、これも望ましいサイン。5月の月初は「信用買い残も裁定買い残も悪い」だったのが、今は「信用買い残は悪いままだが裁定買い残は改善している」だから、需給の悪さはヤマ場を超えてひと息ついたと言ってもいいだろう。
それを前提に23日終値時点の日経平均のテクニカルポジションを確認すると、終値14462円は25日移動平均線の14315円よりも上にあり、75日移動平均線の14523円、200日移動平均線14642円よりも下にある。前週にドル円が101円台でも日経平均が上昇した状況を考えると、14315円の25日線は下値のサポートラインになってくれる可能性が大きい。一方、日経平均の上値のほうは23日の午後に14528円まで上昇してタッチしていた14523円の75日線がなかなかのクセ者。1月の下落でそれを割り込んで以来、日経平均の上昇を何度も何度もはね返して「鉄の壁」と化してきたからである。これを終値ベースで完全突破すれば4ヵ月ぶりの悲願がかなう。それが26日か27日に実現するか、できないかで、今週末の日経平均のポジションは大きく変わってくることだろう。
もし、この鉄の壁を突破できれば、そのすぐ上に横たわる日足一目均衡表の「雲」が23日時点で14550~14598円と幅が48円しかなく、薄くなっている。前週に3月以来の「ねじれ」を通過したばかりで雲はまだ薄い状態で、一気に突破するチャンス。3月にできた雲のねじれでは突破にチャレンジして失敗したが、今度こそ「約束の地」にたどり着けるか? その一目均衡表の雲の向こう側はいつも青空で、雲の上に出たらその勢いで一気に15000円チャレンジも望めそうだ。
一方、為替の円高を伴って日経平均の足を引っ張りそうなリスクはやはり外部要因。ウクライナ情勢はロシアのプーチン大統領が軍を撤収させて25日の大統領選挙の結果を様子見して小康状態だが、南シナ海で中国と周辺国がもめ、その中国で爆弾テロが発生し、政局が混迷するタイでは軍のクーデターが起きてしまった。タイは東南アジアの自動車産業のセンターで日系工場も多いので影響が心配される。それらが上値を抑える要因になり今週早い段階で75日線の鉄の壁を突破できなければ、日経平均はまた14300~14500円あたりで「迷宮」に閉じ込められ、上にも下にも行けないままシエスタの惰眠をむさぼることになりそうだ。そのように、今週は日経平均が一段高して変化できるか、あるいは変化できないかを確認する週になる。
ということで、75日線を突破する、しないという2つのシナリオを想定して、今週の日経平均終値の変動レンジは14300~15000円とみる。期待したいのはやはり、日本の個人投資家が再び買い越しに転じ、そのパワーを見せてくれること。「青年は決して安全な株を買ってはならない」と言ったのはジャン・コクトーだが、青年に限らず恐るべき子どもだろうと中年だろうと老年だろうと、リスクを怖がってばかりいると株式投資は全然楽しくないはず。人間もマーケットも毎日生まれ変わる。チャンスは日々新たなり。たとえささいな夢でも、夢を託せるのが株式投資の良さである。(編集担当:寺尾淳)