今月、殺人事件などの刑事裁判の審理に裁判官とともに市民が参加する裁判員制度が施行から5年の節目を迎えた。今年3月までに裁判員や補充裁判員として制度に参加した市民は4万9000人を超え、判決を言い渡された被告も6400人を数える。
導入時には世論が賛成と反対とに分かれ大きな論議を生んだこの制度、それから5年が経ち、今話題に上っているのは当時議論となった冤罪や量刑といった裁判の中身よりも、むしろ辞退者の増加という「中身以前」の問題だ。
この5年間、辞退率は徐々にだが着実に増加している。そもそも裁判員制度がはじまった09年の時点で既に辞退を認められた候補者は53.1%と半数を超えていた。これが昨年12年には60%を超え、13年には63.3%に達した。さらに辞退もしないままに呼び出しに応じず裁判員の選任手続に出席しなかった候補者も、09年の16.1%から13年には26%まで増加している。
裁判員制度は市民が呼び出しに応じて裁判所に行くことを前提に成り立っている制度だ。呼び出しにすら応じない市民が3割近くいることは、裁判員制度が施行から5年で既に大きな試練の時を迎えているといっても良いだろう。なぜこのような事態に陥ってしまったのだろうか。
辞退率上昇の背景には、審理の期間が長くなっていることが挙げられる。初公判から判決までの審理期間の平均は、制度が始まった09年が3.7日だったのに対し13年には8.1日と2倍以上になっている。単に「忙しいから」という理由で辞退を望む市民に手を貸すため、インターネット上では「どうすれば辞退ができるか」をアドバイスするウェブサイトもある。本来裁判員制度は「国民の義務」であり特段の理由がなければ辞退が出来ないにもかかわらず、である。
裁判員制度は、それまで一般的な感覚と異なった判決が出されていると批判を受けていた司法の場に私たち市民の感覚を持ち込み、司法の改革を行うために導入された。辞退者が今のまま上昇し続ければ幅広い意見を取り入れるという主旨は達成できなくなってしまうだろう。制度を維持し定着を図るのであれば、まずは裁判員制度の意義を改めて伝え、社会の理解を求めていく努力が必要とされるだろう。(編集担当:久保田雄城)