「欧州市場を攻め込む」。鉄道発祥の地、英ロンドン中心部のイベントホールで、英鉄道会社幹部ら約200人を前に、日立製作所<6501>の鉄道事業を率いるアリステア・ドーマー交通システム事業グローバル最高経営責任者(CEO)は胸を張った。日立は世界市場開拓に向け、鉄道発祥の地、英国を舞台に世界の強豪に挑戦状をたたきつけた。
国内の鉄道車両メーカー各社は海外で相次ぎ受注獲得に動いている。2011年3月の九州新幹線の全線開通やJR・私鉄各社の投資一巡を受け、鉄道車両メーカーは国内での需要急減に直面している。次の大規模プロジェクトは27年開業を目指すリニア中央新幹線しか見当たらない。そのため各社は海外市場での有望案件の獲得を急いでいるのだ。
新幹線でシェア3割、JRの運行管理システムで8割強のシェアを占める日立の鉄道事業の起源は、日立鉱山を創業した久原房之助氏が1917年に建設した日本汽船笠戸造船所に遡る。同社の笠戸事業所(山口県下松市)は、鉱山王、久原房之助氏の肝いりで作られた車両製造の一大拠点だ。JR九州が運行し人気を集める豪華寝台列車「ななつ星」も生産する高い技術力を持つ。ほかにも日本中を走る車両がここで製造されている。日立にとっても鉄道マニアにとっても、下松は聖地とも言える場所だ。
しかし、世界の市場で求められるのは、高い技術力だけは無い。世界ではあらかじめ仕様を決めるセミ・オーダーメード式が主流。カナダ・ボンバルディア、独シーメンス、仏アルストムの海外鉄道ビッグ3はいずれも標準モデルを用意し、設計や部品の共通化で製造コストを削減している。そこで、日立は鉄道事業の世界戦略車両を初公開。海外からの鉄道会社から受注するオーダーメード方式を見直すことで、コスト削減と納期短縮につなげる。
日立にとって連結売上高に占める鉄道事業の売上高は2%未満だが、重みは決して小さくはない。英国で総事業費1兆円の大型案件を獲得し、鉄道業界の「風雲児」とされる日立。世界で重電再編の嵐が吹き荒れる中、鉄道事業で欧米ビッグ3の牙城を突き崩せるか。次の100年に向け日立の鉄道世界戦略が走り出した。(編集担当:久保田雄城)