「本州で廃車にされた旧い車両に乗りたければ九州へ行けば良い。」かつて鉄道ファンの間ではそんな冗談が言われていた。沿線人口が少ない不採算路線が多く、車両の更新もままならない。それがJR九州の印象だった。旧国鉄の分割・民営化を受けて発足したJR7社のうち、赤字のローカル線を抱え経営が厳しい九州、北海道、四国の旅客3社は独立行政法人の鉄道建設・運輸施設整備支援機構が全株式を持つ枠組みが続いていた。
国鉄から分割民営化されたJR九州は、鉄道事業だけでは経営が成り立たない。さらに、国鉄時代の“役人根性”が染みついた多くの社員には、民間企業のようなサービス精神が欠けていた。そんなJR九州の意識改革を行ったのが、初代社長ら経営幹部だ。デザイナーの水戸岡鋭治氏を起用し、特急「つばめ」「ソニック」「かもめ」などにより、“デザインの力”を社員たちに認識させたのだ。
現在、JR九州には35のグループ会社があるが、鉄道運輸収入は全体の半分にも満たない。鉄道事業者としては赤字路線を切りたいところだが、そこを耐え、楽しい列車を作り、九州全域に人が足を運ぶように努力している。「九州に首都圏のような人口はいませんし、鉄道事業は赤字でも仕方ありません。だからといって赤字路線を廃止すれば、地域経済はどんどん疲弊してしまいます。そこで、赤字路線をもっと上手に活用し、リニューアルした博多駅や関連事業との相乗効果で収益を上げ、地域の活性化を図るようにしたのです。」同社の経営陣はそう語り、使命にも似た戦略を取っていた。
こうした経営陣の考え、JR九州のDNAが如実に表れているのが、水戸岡デザインによるユニークで魅力ある列車である。その極みが2013年10月15日に運行を開始したクルーズトレイン「ななつ星in九州」だ。
国土交通省は、国が全株式を持つJR九州を2016年度までに上場させる検討に入った。収益力が高まり、上場後も安定的に経営できる環境が整ってきたと判断。JR会社の上場は1997年の東海旅客鉄道(JR東海)<9022>以来、約20年ぶりだ。個性的な鉄道車両同様、同社の株も投資家の人気を集めることになるだろうか。(編集担当:久保田雄城)