2014年10月7~11日に千葉・幕張メッセで開催された「CEATEC JAPAN 2014」で、4Kディスプレーなどと並んで東芝ブースに新鮮な展示物があった。「野菜を生産する」システムの展示「Clean Room Farming」のデビューだ。確かに東芝は、この5月に神奈川県・横須賀にある同社の遊休施設を完全人工光型の植物工場に転用し、2014年秋からレタスなどの葉物野菜生産を開始すると発表していた。
この東芝が取り組む農業関連事業は、これまでの「野菜工場」とは明らかに異なる。他の電機メーカーなどは、これまで実証実験のために野菜工場を建設してきた。しかし、東芝はあくまでも「核事業として野菜を生産・販売する」ことを掲げる。つまり、農業支援ではなく、東芝が農業従事社になるということだ。「事業採算性を確保するためには家電などと同じで一定以上の規模が必要」とし、事業として成立させるために必要な販売量を分析しているという。もちろん、将来的には、野菜工場システムや関連機器、異業種からの野菜工場への参入そのものを支援する企画の販売も想定している。
これまでの植物工場の野菜は、無菌・清潔といった付加価値を前面に打ち出し、どちらかというと比較的高価で特別な商品として販売されてきた。今回の東芝方式でも、かつて半導体を生産していたクリーンルームで、害虫や雑菌を遮断して無農薬野菜を栽培する点は同じだ。しかし、今回の東芝野菜は、付加価値の高さを追求するニッチ市場を狙った商品ではない。大きな生産規模で採算性を確保し、品質や機能を含めた価格競争力でも勝負する。
ここに農業の工業化が進む将来像が見える。農作物を工業製品のように作る、工業生産の技術やノウハウを活用した農業への参入は、東芝だけではない。パナソニックや日立製作所といった電機メーカーのみならず、トヨタ自動車やデンソーをはじめとする自動車関連メーカーや、昭和電工などの電子部品メーカー、そしてJFEエンジニアリングや神戸製鋼所なども農業関連事業に参入している。
各社が目指すのは、センシングや制御技術、ICT(情報通信技術)活用、品質管理など工場生産で培ったノウハウを生かした農業だ。大手電機メーカーや自動車メーカーなどが農業分野へ参入しているのは、そこに大きな商機があるからだ。
製造業に携わる企業にとって農業が魅力的な産業とするのは、いくつか理由がある。が、大きいのは、食糧を生産する農業の重要性が世界的に高まっているということ。人間の生存には“食事が必須”であり、それを支える産業である農業が絶えることはない。しかも、発展途上国を中心とした世界的爆発的な人口増加に伴い食糧需要は今後ますます増大する。農業に向かないロシアなど寒冷地やアフリカの灼熱の地でも、新鮮な野菜需要は確実にある。この食糧生産に求められているのが、製造業の技術とノウハウを活用した野菜工場だ。
確かに米国などの大規模農業において機械化は進んでいる。が、コストの分析、改善や対応策の検討など、工業生産では当然とされる仕組みが、米国でも多くの場合、農業生産では実践されていないのが現状だ。
日本のお米や野菜・果実などの農産物は、優れた品質で世界的に高く評価されている。それらは日本の農家が長年蓄積してきた栽培ノウハウがあるからだ。そこに製造業の先端の電子技術、分析技術、ムダを排除した作業、品質を高めるための厳しい管理技術などのノウハウを生かした企業の農業生産に期待が高まる。(編集担当:吉田恒)