原発事故時に近隣住民が一時避難できるよう、国が既存施設の改修を進める『シェルター化事業』に基準不備が指摘され、いったん廃止されることが発表された。原発30km圏内の全21都道府県を対象に、国が1施設2億円を目安に全額補助し、原発退避施設の改修を進めていた。
原発事故時に近隣住民が一時避難できるよう、国が既存施設の改修を進める『シェルター化事業』に基準不備が指摘され、いったん廃止されることが発表された。この事業は、2011年東日本大震災時の福島第一原発の事故を受け、12年度より開始。原発30km圏内の全21都道府県を対象に、国が1施設2億円を目安に全額補助し、原発退避施設の改修を進めていた。
しかし、その実態はずさんなものだった。改修対象施設を決める際、耐震性や津波の影響を考慮した基準は設けられておらず、改修の中身は「コンクリート造りにする」、「放射性物質を除去する換気フィルターを設置する」、「建物の気密性を高める」などの程度で、事業点検にあたった外部有識者からの指摘を受け、大慌てで事業の一時廃止、見直しに至ったようだ。
関西電力<9503>大飯原発のある福井県小浜市では、すでに1億400万円が投じられ県栽培漁業センターが当事業の対象施設として改修された。しかし、施設が建っている場所は海岸から距離160m、海抜3m地点。近隣住民からは「津波が来たらとても耐えられる場所とは思えない」と、不安の声が上がっている。津波の影響や耐震性を基準に盛り込んで考慮すれば、もっと高台の場所を選ぶなど、慎重な施設選定・改修事業が行えたのではないか、と首をひねらざるを得ない。
内閣府は、いったん廃止にした上で新たな基準を設け、継続して避難施設のシェルター化を進めるとしているが、福井県小浜市のようにすでに改修が一度完了した施設や、着手されてしまった施設に関し、「すでに補助金交付が決定した施設をさかのぼって調査することはない」としている。本当に近隣住民の安全を考えるなら、すでに補助金交付・改修を行った地域も含め、安易な既存施設の改修ではなく、避難施設の新設も視野に入れて検討し直すべきではないだろうか。
福島第一原発の事故で、単一の地震や事故だけではなく、二次的な津波や余震、放射性物質の拡散など、複合災害への対処が必要だということは痛いほど分かったはずだ。拙速にならず、慎重で確実な原発退避施設作りをお願いしたい。(編集担当:久保田雄城)