11月をむかえると、テレビCMで冬用タイヤ、つまり「スタッドレスタイヤ」の宣伝が本格化する。雪が好きとか嫌いということとは関係なく、日本には“四季”があって、雪が積もる地域は、北は北海道から南は九州まで沖縄県を除く全国に存在する。
日本のウインタータイヤは、1980年代の後半にスパイクタイヤと訣別し、1990年初頭にスタッドレスタイヤが全盛となり、現在に至る。
スタッドレスとは“スパイク付き冬用タイヤ”に対する反語であり、「スパイクピンが無い」という意味だ。そのままの名称「スタッドレスタイヤ」が概ねウインタータイヤ国際標準の正式名称なったのだ。
ところで、サマータイヤからウインタータイヤに換えるタイミングはいつだろうか。北海道・札幌市などでは、おおむね11月初旬に交換する。ほぼ、11月23日の祭日「勤労感謝の日」前後に降った雪が根雪になり、凍結するからだ。これは、季節のモチベーションを習慣化したもので、積雪地域には必ずある実績値といえる。今年も10月28日に北海道や青森県で初雪を観測した。が、根雪になるのはまだ先だ。
ところで、首都圏や関西などのドライバーがウインタータイヤに換装するタイミングは、何を参考にすればいいのだろう。東京周辺でも「雪が降ったからタイヤ交換」では遅すぎるわけで、その交換タイミングで迷うのは確かだ。筆者も毎年12月中旬にスタッドレスに換えているが、一度も雪道を走らない年もある。一般的にタクシーなども同じように12月中旬の変更が多いように思える。
ところで、「一度も雪道を走らないウインタータイヤにも意味がある」と言ったら誤解を招くかも知れない。が、雪があまり降らない地域でもウインタータイヤ(スタッドレスタイヤ)を着ける意味があるのだ。
まず気温だ。外気温計がクルマに装備されるようになって久しいが、その表示が摂氏7°以下になったらウインタータイヤに換えた方が良いというシグナルだ。普通のサマータイヤは路面温度が摂氏45度あたりまで上昇してもグリップ性能やストッピングパワーが落ちないように設計されている。つまり、暑い夏の路面に対処した設計となっている。しかし、低温では先に記した摂氏7度を境に、乾いたターマック(舗装路)でサマータイヤのブレーキ性能が落ちる。これは、低温でタイヤのトレッド面のゴム質が硬くなってグリップ力が低下するため。逆にスタッドレスは、寒くなっても柔軟なゴムがブレーキ性能を助ける。摂氏7°あたりを境に制動距離に逆転が生じるというわけだ。とくに、±0度付近まで外気温下がった場合の乾燥した高速道路で、100km/hからのブレーキングに大きな違いが出る。トレッドゴムが低温で硬くなるサマータイヤの制動距離が伸びる。また、硬化してモロくなったサマータイヤは、夏場よりも冬に減りやすい。
もうひとつ、スタッドレスタイヤ装着の注意点を。昨年、一昨年に購入したスタッドレスタイヤを“この冬も使う”というユーザーも多いと思う。スタッドレスタイヤには深いグルーブ(溝)やサイプといわれる細い切れ込みがあるが、それらが十分に目視でき、摩耗していなくても積雪路でグリップしなくなる場合がある。
ズバリ言って「夏場の保管に問題があったタイヤ」がこうしたグリップ不足に陥る。いわゆるコム質の劣化だ。一般的にサマータイヤのゴム質は6年、比べてスタッドレスは3年とも言われる。が、夏の間に直射日光を浴びる高温下で保管したタイヤは劣化が進むのが早い。業界では「気温55度のなかで保管したスタッドレスタイヤは1週間で1年分の劣化が進む」と言われている。逆に日陰で涼しい(理想の気温は25度以下)場所で保管すれば、経年変化はほとんどないとされる。これがスタッドレスタイヤを保管する場合の注意点だ。
また、スタッドレスタイヤの選択も難しい問題だ。北海道など圧雪・凍結路での性能が絶対重視の地域は比較的簡単だ。これら路面の走行を重視した最新のスタッドレスを選ぶ。難しいのは首都圏などのユーザーだ。1年に何度も雪道を走るわけではないが、降雪時の保険、あるいは年に数度のスキー旅行のために選ぶユーザーは、雪道よりも圧倒的に長い距離を走るドライ路面や雪のない高速道路でのドライバビリティをも重視した選択を心がけよう。欧州などではアウトバーンを時速200km/h超で走行するための高性能でロープロファイルなウインタータイヤもある。
日本でもドライ路面重視のスタッドレスタイヤ選択は、物流を担う運送業界ではスタンダードとなりつつある。高速道路のPAやSAで駐車している全国を縦走する緑ナンバーの大型トラックのタイヤは、夏場でもスタッドレスタイヤを装着している。これは、先に述べた経年変化を嫌って、毎年冬を迎える11月に新しいスタッドレスに交換して1年を走りきる、という使い方をしているからだ。冬を前に“愛車に新しい靴”を、という使い方も悪くないのではなかろうか。(編集担当:吉田恒)