温度を感じる神経系の基本的なしくみが解明された。京都大学大学院理学研究科の井上武特定助教、阿形清和教授らのグループは19日、生物の生存に最も重要なものの 1 つである温度をどのようにして感知しているのか、という問題に対して、単純な脳をもつプラナリアを使って、温感神経で感知した温度情報を脳に伝えて適切な行動をとるための一連のしくみを明らかにしたと発表した。さらに、これまで生物にとって不利な環境と考えられてきた低温でも、生存戦略として利用している可能性がでてきたという。
多くの生物で、環境温度がわずかに変動するだけでも、行動様式、恒常性、生存、生殖戦略に影響する。これは、恒温動物にかぎらず、自分で体温をコントロールできない変温動物では、温度を的確に感知することは特に重要な問題となるという。また、温度を感知する機構が、進化の過程でどのように獲得されてきたかは解明できていなかった。
変温動物であるプラナリアは、温度変化によって、自切(分裂)頻度、体のサイズ、無性生殖から有性生殖への転換などさまざまな変動がみられることが昔から知られており、温度と生き物の関係性を調べるのに適しているという。そこで、同グループは、プラナリアの温度に反応する行動を指標にして解析を始めた。
まず、様々な感覚刺激に重要な働きをしていて、動物界で広く保存されている Transient Receptor Potential(TRP)ファミリーのタンパク質に着目して、プラナリアの温感神経細胞を同定した。温感神経は、プラナリアの全身に分布していることがわかったが、プラナリアが温度に反応して適切な行動をとるためには、脳の活動が必要で、全身で感知した情報が脳に送られることがわかった。
次に、多くの種類がある脳のどの神経細胞の種類が、温度情報を処理しているかを調べた結果、セロトニン神経細胞が働いていることを突き止めたという。この機構は、多くの動物で利用されている温度感知システムの原型と考えられる。さらに、ヒトも含めて動物は、一般に低温を嫌うが、プラナリアは、反対に低温を好むこともわかったという。これは、これまでに知られている動物の温度に対する反応として、初めて発見されたもの。これまで、低温は生物にとって不利と考えられてきたが、体を低温にすることで、代謝を低下させてエネルギー消費量を抑えたり、生殖様式を転換したりと、積極的に低温を生存戦略に利用している可能性も示唆された。(編集担当:慶尾六郎)