早老症のニホンザから老化のメカニズムを解明

2014年11月11日 12:10

 聞きなれないと思うが、早老症という病気がある。実際の年齢よりも急激かつ顕著に、老化と共通した身体変化が生じる一群の疾患である。ウェルナー症候群やハッチンソン・ギルフォード症候群などが代表的な早老症で、いずれも非常にまれな遺伝疾患だという。原因は、DNA修復能力の低下や染色体の不安定化とされている。しかし、これまで、ヒト以外の動物では、早老症の自然発症例はほとんど報告されておらず、また、ヒトの早老症の原因遺伝子を持つマウスでも、限られた症状しか発現しなかった。

 今回、京都大学の高田昌彦 霊長類研究所教授、大石高生 同准教授らの研究グループは、霊長類研究所で世界で初めて「早老症」のニホンザルを発見したと発表した。ニホンザルは通常3歳半で思春期を迎え、25歳程度で老齢に達する。ところが、早老症のニホンザルは1歳未満で白内障や皮膚の萎縮を発症し、2歳の時点で脳が萎縮し、糖尿病の初期症状を示したという。ヒトの早老症の原因となる遺伝子には異常が見られなかったことから、新しいタイプの早老症であると考えられるという。

 今回、同研究所で飼育しているニホンザルの中に変わった外見の子ザルがいることが発見された。MRI、CT、血液や尿の生化学検査、皮膚の組織学的検査、皮膚から培養した細胞の検査、遺伝子検査などを行い、正常な子ザル、オトナザル、老齢ザルの検査結果と比較したところ、この子ザルは、白内障、皮膚の萎縮、大脳皮質や海馬の萎縮、神経の伝導速度の低下、糖尿病マーカーの増加など、老齢ザルや早老症患者と共通した性質を示した。また、皮膚から培養した細胞は増殖速度が低く、DNA修復能力も低下していた。これも早老症患者と共通する特徴だという。

 しかし、詳しく検討すると、ヒトの早老症に属するいずれの症候群とも症状が完全に一致することはなく、原因となる遺伝子にも異常は見られなかった。このことから、このサルはヒトで報告されている早老症とは異なったタイプの早老症の個体であるが、身体的な特徴が早老症と類似しているため、早老症や正常老化のメカニズムを研究する上で有用なモデル動物になると考えられるとした。

 ニホンザルなどのマカクザルは、マウスなどの実験動物よりもはるかにヒトに近い発達・老化パターンを持つ。今後は、早老症モデルのサルの身体的な変化をさらに詳しく調べるとともに、その原因遺伝子を探索し、正常老化や早老症のメカニズムの解明を目指す。
 
 また現在、霊長類研究所では、ニホンザルのiPS細胞の作成に取り組んでいる。このサル由来の細胞からiPS細胞を作成し、新しい早老症モデル細胞の実験系を構築する予定。さらに、早老症に限らず、さまざまな特徴を持ったニホンザルを網羅的に探索し、身体・行動・ゲノムを多角的に調べることにより、新しいモデル動物に対する研究を試みたいと考えているとしている。(編集担当:慶尾六郎)