11月25日、不妊治療などで体外受精した受精卵のすべての染色体について、異常がないかを事前に調べて子宮へ戻す「新受精卵診断」を日本産科婦人科学会の倫理委員会が承認した。何度も流産を繰り返してしまう習慣流産に対する有効手段として考えられており、今後3年間をかけて臨床研究を行っていく。対象となるのは2回以上流産を繰り返している患者や、体外受精が3回以上成功しなかった患者と限定的だが、「実質的な命の選別ではないか」という批判がある。
これまでの受精卵診断は、患者それぞれの事情を個別に審査した上で実施されてきた。遺伝性の病気を受け継ぐ子どもが生まれる可能性が高い場合や、染色体の一部に原因があって習慣流産になってしまうケースなど、350例以上が承認されている。
しかし新受精卵診断の方針が導入されれば、すべての染色体を調べることになるため、受精卵の状態からあらゆる情報が判明する。22対ある常染色体のうち、21番染色体が1本多いために発症するダウン症なども新受精卵診断では明らかになる。今回承認されたのは「異常のない受精卵を子宮に戻す」という新たな方法が習慣流産の回避に繋がるかどうかの検証だが、どの受精卵を「異常のない」と判断するのかが今後の問題となりそうだ。
35歳以上での高齢出産は増加傾向にあり、40代で出産を望む女性も増えている。流産などのリスクがある高齢出産の安全性を高めるために、羊水検査などの出生前診断も行われるようになっている。2013年4月から、母体の血液で染色体異常を調べる新出生前診断が開始されているが、今年3月までに検査を受けた7,740人のうち113人で異常が見つかり、110人が中絶を選択した。
医療の進歩により、遺伝子情報や受精卵の状態を調べる技術は発達し、精度も格段に向上している。しかし受精卵や胎児に異常が見つかったとき、どのような判断をくだすのかについて明確なルールがなく、倫理問題や中絶増加などの混乱が起きているのではないのか。また検査を受けたことによって命の選択を余儀なくされた夫婦の心のケアについても、早急に取り組んでいかなければならない問題だろう。(編集担当:久保田雄城)